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「韓国ビールじゃ物足りない」と自虐する韓国人がそれでも日本のビールを買えない理由

韓国を支配する“空気”の研究――不買運動編

2020/01/23
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「このお店では日本製品は販売しません」というステッカー

 日本大使館そばにある曹渓寺裏のお店には、入り口のガラス扉に「このお店では日本製品は販売しません」というステッカーが貼ってあった。そこから500メートルほど離れた鍾閣駅そばのお店には、日本製ビールはあったが、「サービス価格」対象外になっていた。中年の男性店員に「日本のビールはどうして割引しないの」と聞いてみたら、「社長(お店の経営者)が決めたんだろう」と不機嫌そうな返事が返ってきた。さらに、500メートル離れた、仁寺洞にあるお店の場合、普通に「サービス価格」で販売していた。

 一方、やはり光化門近くのユニクロを訪ねてみた。日曜日の午後4時過ぎだというのに、1、2階の売り場にいた買い物客はわずか十数人。4人連れの女性客は中国語で会話をしていた。3人は西洋風の顔立ちのバックパッカーだった。スカスカの店内で、韓国人の従業員が手持ちぶさたにしていた。ただ、そのそばにある日本系の雑貨品店は大勢の買い物客で賑わっていた。

©iStock.com

「ヌンチをみる」と「日本製は買えない」

 なぜ、こんなバラバラな状況が生まれているのだろうか。

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「ヌンチをみているからだよ」。私が会った大勢の韓国の知人たちは異口同音に教えてくれた。「ヌンチをみる」というのは、日本語の「空気を読む」という意味に近いだろうか。

 40代の韓国外交官は週末、大型スーパーで日本製ビールを買おうとして、妻に止められた。「あなた、こんな時期にイルボンメクチュ(日本製ビール)なんか買って大丈夫ですか」と言われたという。

 知人の1人は「コンビニはフランチャイズ制だから、経営者の判断次第で、日本製品を売ったり売らなかったりするんだろう」と語った。

 曹渓寺近くのセブンイレブンの場合、すぐそばには、日本大使館近くに設置された慰安婦を象徴する少女像がある。水曜日ごとに日本に対する抗議集会も開かれている。一方、仁寺洞は土産物品を売る店がひしめき、日本人観光客にも人気の観光スポットだ。そういう「土地柄」が影響したのかもしれない。

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 朝日新聞前ソウル支局長として韓国社会を取材してきた牧野愛博氏による新著『韓国を支配する「空気」の研究』(文春新書)が好評発売中です。対日関係から若者の格差、女性の社会進出など、様々な角度から韓国の「空気」を読み解いています。

 

「韓国ビールじゃ物足りない」と自虐する韓国人がそれでも日本のビールを買えない理由

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