アメリカの最前線で活躍する若手女性クリエイターのスタイリッシュなライフスタイルを期待すると裏切られる。レナ・ダナムが2014年に出版したベストセラーの日本語訳『ありがちな女じゃない』は、女子更衣室のデオドラントのにおいが立ち昇りそうなリアルで気取りがない名エッセイだ。
例えば、レナが英国の女性劇作家と出会い、互いの痛みを分かち合う、美しい思い出が描かれるがその直前、レナは盛大に嘔吐している。決して記憶を美化しない分、才能ある女の子たちの魂のふれあいは輝きを増す。反対に、少しも楽しめなかった大学生活を振り返った時、ある種の愛しさが溢れ出してしまうことを、レナは自分に禁じない。リベラルな両親のもと何不自由ない暮らしを送ったにもかかわらず、不安だらけだった少女時代を堂々と告白する。
この姿勢は彼女が監督・脚本・主演を務めた人気ドラマ「Girls/ガールズ」にも反映されている。自らヌードも辞さずに不様なラブシーンを演じ、登場人物はどこまでも傲慢な怠け者。ゆえに、ちょっとしたやりとりや時折見え隠れする純粋さが俄然キラキラして見えるという不思議なマジックに満ちた作品だ。
忘れたい黒歴史だって、丁寧に探れば、宝石を掘り当てることもある。希少な輝きをつかまえたい彼女にとって、ナルシストのお嬢さんと呼ばれることも、露悪的とくさされることも、どうでもいいことなのだ。
恐怖心に駆られて年配の権力者に媚びへつらい彼らを付け上がらせたこと、性暴力を振るわれたことを認めたくなくて自分を偽ったこと。彼女のような勇敢なフェミニストでもそんな瞬間を味わったことがあるのか、と目を見開く思いだった。しかし、矛盾や弱さを内包しながらも、自分の足で立ち真実を見極めようとする姿は、「負けるな」と叱咤激励されるよりも、よほど読者を勇気付ける。
妥協することもなく、かといって歯を食いしばり既存のルールにおもねることもなく、自分にふさわしい場所に立つためには何が必要なのか。レナは時にとぼけたニュアンスで、時に力強い筆致で教えてくれる。
今作には何者でもない大勢の女の子が登場する。レナが彼女たちに向ける視線は温かい。冒頭でも述べられているように、彼女がここまで自分をさらけ出すのは、すべての失敗には意味がある、と姉妹たちに希望を発信したい、一心なのだ。
ヒラリー・クリントンが敗北宣言の際に送った、女の子へのエールにぐっときた人なら、大切な一冊になること請け合いである。
Lena Dunham/1986年ニューヨーク生まれ。大学在学中から短篇映画を発表して注目される。2012年にドラマシリーズ「Girls/ガールズ」監督・脚本・主演に抜擢され、同作でゴールデングローブ賞など受賞。
ゆずきあさこ/1981年東京都生まれ。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞受賞。近著に『幹事のアッコちゃん』など。