1月27日、将棋ユーチューバーとして知られるアマチュアの折田翔吾さんが棋士編入試験第3局を戦う。

 折田さんは現在1勝1敗。あと2勝すれば合格となり、正式に棋士として認められる。逆にあと2敗した時点で試験は終了となる。

プロ棋士編入試験5番勝負の第1局で黒田尭之四段(手前)に勝利し、対局を振り返る折田翔吾アマ ©共同通信社

15年前、“特例中の特例”だったプロ編入試験

――さかのぼること15年前。将棋界では特例中の特例として棋士編入試験が行われた。

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 挑戦したのはサラリーマンの瀬川晶司アマ(当時)。35歳だった瀬川アマは若い頃にプロ棋士を目指すも夢はかなわず、アマチュアとして大会で活躍し、プロ棋戦でもアマ代表として高勝率をあげていた。

 いくらアマチュアで活躍しても、年齢制限によって棋士への扉は閉じられており、瀬川アマがプロになるのは不可能だと思われていた。

 しかしいくつもの偶然と意思が重なり、瀬川アマはその扉をこじ開けるチャンスを得た。このチャレンジは社会現象にもなり、瀬川アマは一躍時の人となる。

 今回の試験とは違って「6戦して3勝で合格、4敗で終了」という条件のなか、瀬川アマは1勝2敗で第4局を迎えた。残り3戦中、2勝で合格、2敗で終了という条件は、いまの折田さんと一緒だ。

 瀬川アマを第4局で迎え撃つ中井広恵女流六段は、女流棋士代表として必勝を期していた。この対局は、終盤戦で中井女流六段にビッグチャンスが訪れるも、危機をしのいだ瀬川アマに軍配が上がった。

 ここで負けていたら、勝負の流れとしても合格は厳しかっただろう。まさに運命を分けた一局だった。結果的に第5局も制し、瀬川アマは35歳にしてプロ棋士の資格を得た。

「史上最年少プロ」vs.「35歳でプロ」

――それから12年後の2017年、瀬川五段(当時)は史上最年少の14歳2カ月でプロ入りしたばかりの藤井聡太四段(当時)と対戦した。藤井四段の順位戦における初対局相手だ。

 対照的な棋歴をもつ2人の対戦に世間の注目が集まった。デビューから25連勝中の藤井四段に対し、瀬川五段は積極的な攻めを仕掛けるも、残念ながら敗れた。

 終局直後、対戦相手もいるなかのインタビューで瀬川五段は、

「ぜひ連勝記録を達成していただきたいと思います」

 そう語った。

 テニスなど世界的なスポーツでは、戦ったすぐ後のインタビューで対戦相手に敬意を表すことがある。しかし将棋の世界ではあまり見たことのない光景だった。この紳士さが、一度は棋士を目指すもかなわなかった弱さでもあるだろう。

 だが、その人間味にファンは魅せられるのだ。