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将棋YouTuber折田翔吾はプロになれるか――編入試験“初代棋士”の忘れられないひと言

将棋YouTuber折田翔吾はプロになれるか――編入試験“初代棋士”の忘れられないひと言

2020/01/27
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「何故、安定を捨ててプロを目指したのか?」

 じつは筆者は、プロ入りが2005年10月で瀬川六段と1カ月違いという縁がある。瀬川アマがプロ入りを決めた一戦で、筆者はプロになって初めて解説を担当した。それまで大勢のお客様の前で解説をする経験はなく、緊張した思い出がある。

 そんな縁もあり、筆者は瀬川六段と「ブログ研」という会で一緒になる。「ブログ研」とは、渡辺明三冠、片上大輔七段、瀬川六段、筆者と、ブログを書く棋士4名で行う将棋の研究会だ。

 瀬川六段とは練習対局で盤をはさみ、打ち上げで酒を酌み交わし、多くの時間を共有した。

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 瀬川六段は人の気持ちがわかる男だ。だから誰にでも優しい。先ほどの藤井七段へのエールも、並々ならぬプレッシャーにさらされている後輩を気遣ったのだろうと想像する。

 また、長年の付き合いで女性に人気があることもわかった。人の気持ちを考え、よく話を聞く男はモテるものだ。

「何故、安定を捨ててプロを目指したのか?」

 素朴だけど聞きづらいことを、酔いにまかせて聞いたことがある。

「やっぱり棋士はいいよ。自分は両方やったからわかるんだ」

 瀬川六段が噛み締めるようにそう答えたことをよく覚えている。

2005年、高野秀行五段(左)に勝ってプロ編入試験に合格。笑顔を見せる瀬川晶司アマ(当時) ©共同通信社

茨の道でも「やっぱり棋士はいいよ」

――ある時、ブログ研の打ち上げで高級なステーキを食べに行った。

 それは瀬川六段が「フリークラス」を脱出した時のことだった。棋士編入試験に合格すると、まず「フリークラス」に入る。そして規定の成績をあげると順位戦C級2組に入ることになる。

 順位戦に在籍する限り、自らの意思以外で引退させられることはない。しかし、「フリークラス」で10年以内に規定の成績をあげられないと、引退に追い込まれてしまう。

 つまり「フリークラス」と選手生命の“終わり”は背中合わせなのだ。

 瀬川六段の場合、特例の編入試験のため、一部ではその実力を疑問視する声もあった。だから、瀬川六段にとって「フリークラス」を脱出して実力を示すことは、選手生命を伸ばすとともに、あとに続く人たちのための使命でもあったのだ。

 誰も口にせずともブログ研メンバーはそのことを理解して応援していた。酒席でみせた瀬川六段のホッとした表情はいまでも忘れられない。

 折田さんが合格できたとしても、さっそく「フリークラス」での引退へのカウントダウンが待っている。

 どこまでも茨の道は続くのだ。そんな茨の道を歩んでも瀬川六段は、

「やっぱり棋士はいいよ」

 そう言うのだった。