『老いと記憶』(増本康平 著)

 著者は人の情報処理の仕組みを扱う、認知心理学の専門家。20年以上、加齢や脳疾患が認知へ及ぼす影響を研究し続けている。本書が初の一般向け著作。加齢にともない記憶の定着の仕方がどう変わるのかを、科学的論拠を示しながら、柔らかな文体で綴っている。

「『エイジズム』と呼ばれる年齢差別の発想が今の日本には根強く、年を重ねることにプラスの意味がなかなか見出せない状況です。記憶に関しても、加齢で失われる機能はありますが、知識は蓄積され続ける。年をとったらボケます、はい、おしまい……という単純な話ではありません。メディアにネガティブな情報が多すぎることも影響しているのでしょう。加齢をただ悲観的に捉えなくてもよいと、感情的にではなく、理論的に示していただけたのは、ありがたかったです」(担当編集者の上林達也さん)

 記憶力の低下は、メモや手帳などの補助ツールで対応できる。高齢になっても脳の幸福を感じる部位の機能は衰えにくく、老い先の短さを意識し、物事を認知する方法をあらためれば、より幸せを感じられる。また、感情をコントロールする術は生涯上達させられる……。そんな地に足のついた知見が詰まっている。

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「記憶は自分の人生を振り返り、受容するためのツールでもあります。本書が人が記憶と上手く付き合うきっかけになれば」(上林さん)

2018年12月発売。初版1万4000部。現在6刷5万部

老いと記憶-加齢で得るもの、失うもの (中公新書)

増本 康平

中央公論新社

2018年12月19日 発売