虚言で連れ戻した
当時この事件を取材していた福岡県警担当記者は振り返る。
「松永は由紀夫さんの姉で、清美さんの伯母にあたる橋田由美さん(仮名)に連絡を入れ、事情を知らない彼女に『清美は泥棒して警察に保護されたことを由紀夫に知られ、由紀夫から殴られて逃走した。清美は不良グループに入って覚せい剤の運び屋グループの可能性もある。清美は祖父母の家にいるので、一緒に来てくれ』と虚言を弄して、祖父母の家に2人で押しかけていました。
そこでミヤザキを名乗る松永は、すでにこの世にいない由紀夫さんのことを“所長”と呼び、彼がヤクザとして羽振りのいい生活を送っていることを匂わせたうえで、『私は所長から娘が18歳になるまで世話を頼むと言われ、その責任があります。お願いですから清美さんを戻してください。約束を守らないと所長に半殺しにされます』と説得。清美さんを連れ戻しました」
書類に署名・押印させ脅迫
押し込まれた東篠崎マンションの部屋で、清美さんは松永から、1996年2月に父親の由紀夫さんが片野マンションで死亡したことについて、「あんたがお父さんを叩いて殺したんやろ」と脅された。
そのうえで〈事実関係証明書〉として、〈私は平成8年2月26日に北九州市小倉北区片野×-×-× 30×号室において実父由紀夫を殺意をもって殺害したことを証明します〉と白紙に書かされ、署名・押印させられていた。その際に松永は、「今度、門司の祖父母のところに逃げ込んだら、この書面を祖父母に渡す。あんたは、門司の祖母の息子を殺した。それでも祖父母のところに行けるのか」と清美さんに全責任を押しつけて脅迫し、緒方に書面の保管を命じている。
さらには、「祖父母のところに住んで仕事をしたいのであれば、大金を支払ってもらう」と告げたうえで、白紙に〈生活養育費として借用した2000万円について、毎月30万円以上を支払う。仮に逃走した場合には元金は4000万円に増加する〉といった旨を彼女に書かせ、こちらにも署名・押印させた。
通電による虐待
2月15日の午前5時頃に始まったこれらの脅迫は、正午過ぎまで延々と続いた。そこでは「今度逃げたら、お父さんのところに連れていく。簡単なことなんぞ。あんたが死んだら、お父さんのところに行ったと言えばいい」「自分が頼めば、伯母はなんでも言うことを聞く。逃げても探偵を使って探し出す。ヤクザに頼んで風俗店も全部調べた。今度逃げても、そいつらに頼んで探し出し、見つけたら打ち殺す」などといった脅し文句が並ぶ。
じつは清美さんは、祖父母宅から松永に連れ戻される際に、彼の隙を見て祖母に〈(松永が)言ってることはみんなウソ。あとで必ず迎えに来て〉と、広告の裏に走り書きしたメモを手渡していた。その日の夜、清美さんの伯母を通じてそのことを聞いた松永は激昂する。そして午後11時頃に「電気を通しながら聞く」と、緒方に電気コードの先に金属製クリップをつけた器具を、彼女の右上腕部にガムテープで固定させ、100ボルトの電流を流す“通電”による虐待を始めたのだった。