神戸への「侵入経緯」とは?
そして我々、外来種の研究者も、いずれ日本にヒアリがやってくるであろうと危惧していた。そしてその「侵入リスク」は現実のものとなった。2017年5月20日中国の広州から貨物船で運ばれてきたコンテナが神戸ポートアイランドのコンテナヤードに陸揚げされた。コンテナは25日まで当地で保管され26日に尼崎市の通関事務所に運ばれた。そして通関業者が荷物を下ろすために、コンテナを開封したところ、コンテナの中に見慣れないアリがコロニーをつくって生息しているのを発見。通報を受けた環境省が地元博物館の専門家に同定を依頼した結果、ヒアリであることが判明した。国内初のヒアリ発見事例となった。コンテナは6月1日に神戸市の検疫所に運ばれ、燻蒸処理によって中のヒアリは駆除された。
この発見を受けて神戸市は急遽、問題となったコンテナが置かれていたポートアイランドのコンテナヤード内の調査も実施した。すると今度はヤード内のコンテナ重量でゆがんでできたアスファルトの割れ目にヒアリが100匹以上出入りしている状況を確認。こちらも即時、殺虫剤を注入し、駆除を行い、今後、この割れ目は補修によって埋める予定とされる。
アカカミアリも発見 2種の「毒アリ」が上陸していた!
さらにヤード内の調査を続けた結果、今度はアカカミアリという、冒頭で記した別の外来毒アリが6月20日に発見された。ヒアリと同様に、アスファルトの割れ目に住み着いていた。こちらも即時に殺虫剤処理がなされた。アカカミアリはヒアリの近縁種で、形態もよく似ており、北米南部〜中年米に生息する毒アリである。日本ではすでに硫黄島に侵入しているが、本土内への侵入はこれが初事例であった。アカカミアリもヒアリ同様に危険な外来種として世界に名が通っており、環境省の特定外来生物にも指定されている。
2種も危険な外来アリがほぼ同時に、しかも同じコンテナヤードで見つかったということで、神戸市役所は急遽対策本部を設置、コンテナヤードのあるポートアイランド周辺に粘着トラップを設置するとともに、コンテナヤード周辺にベイト剤と言われる殺虫成分を含有する餌を設置した。もし、これらの外来アリが営巣していれば、このベイト剤を巣に持ち帰らせることで、巣内の増殖を抑えて駆除することができる。
さらには国土交通省が全国の港湾施設において緊急点検を行うよう指示を出し、これまでの外来生物では考えられないほどの迅速な行政対応が実施された。その背景にはやはり「殺人アリ」と称される危険生物としての前評判があった。
筆者も参加した緊急対策会議で決まったこと
22日には神戸市役所において対策会議が開催され、筆者も含めて、外来アリ類の専門家が参集した。会議前の現地視察とこれまでの調査結果報告から会議では、今回の外来アリ2種の侵入に対しては初動対応が功を奏して、幸い、ヤード外に分布拡大している可能性は低く、まずは最悪の事態は避けられていると判断された。
とはいえ、まだ油断はできないことから、今年度いっぱいはポートアイランド内の監視態勢は継続し、もしトラップに1匹でもヒアリもしくはアカカミアリが確認されるようであれば、改めて緊急防除を検討することとした。おそらく今後、大阪市で発見されたアカカミアリにおいても同様の監視・防除体制がとられることとなるであろう。