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「毒アリ」来襲! 神戸・大阪で露呈した“侵入リスク”

なぜヒアリ、アカカミアリは日本に「侵入」してきたか

2017/06/27

ヒアリ(アカカミアリ)に噛まれたらどうすればいい?

 ところで、国民の最大の関心事はヒアリ・アカカミアリの毒性リスクだと思われる。そのリスクと対応策については、山でクマに遭遇した際の対応策よろしく諸説あるが、ここは専門のお医者からの意見も借りて、簡単にリスク評価を論じておきたい。まず、ヒアリ(およびアカカミアリ)の毒は甘くみてはいけない、ということである。普通の人は刺されてもまず大事に至ることはないが、これらの毒に対してアレルギー体質の人では、重篤なショック症状を示す場合があることをまず念頭において頂きたい。

 このショック症状は「アナフィラキシー・ショック」と言われ、ハチやアリなどの生物毒やダニの糞などのアレルゲンが体内に侵入した場合に発症するアレルギー反応である。医学的に解説すれば、哺乳類ではアレルゲン(抗原)が体内に入ると、それに対する抗体ができる。抗原と抗体は、ヒスタミンをはじめとした炎症など引き起こす物質を多く含んだ肥満細胞という細胞と結合し、ヒスタミンなどを体内に放出する。ヒスタミンは細動脈を拡張させるため、急激な血圧低下および毛細血管細胞膜の透過性亢進による浮腫を引き起こし、これらの反応が過剰に進むと、アナフィラキシー・ショックが発症する。

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  ハチなどに1回刺されて2回目以降にアナフィラキシーを起こしやすい、とされるのは、1回目の刺傷で産生された抗体が、2回目刺傷でつくられた抗体とあわせて、肥満細胞からより多くのヒスタミンなどが体内に放出されるためと考えられている。しかし、体調や体質によって、ヒスタミンに対する感受性は異なるため1回目の刺傷でもアナフィラキシー・ショックは生じることがある。

 また、ハチ毒自体にもアレルギー反応を起因させるヒスタミンが多量に含まれているので、上記の免疫反応に加え人によってはよりアナフィラキシーを引き起こす可能性が高まる。件のヒアリ毒にはヒスタミンは含まれていないが、肥満細胞からヒスタミンの放出を誘発する作用がかなり強いことが報告されており、やはり体質によってアナフィラキシー・ショックが生じるリスクが高いとされる。

 アナフィラキシー・ショックが発症すると、全身のじんましんなどの皮膚症状や嘔吐、浮腫、呼吸困難などが起こり、さらに重症化すると意識障害や急な血圧低下に至り、放置すれば命に危険がおよぶ確率が高くなる。アナフィラキシーは、即時型アレルギーの一種で、ハチやアリでは刺されてから比較的短時間(10〜15分)で発症するとされており、もし、虫に刺されて、全身の異常を感じ始めたら、すぐに救急車を呼んで、治療を受ける必要がある。

アリに刺されるという予測不可能リスクに備えるために

 確率が低いとは言え、誰でもアナフィラキシーになる可能性はあり、やはり、可能な限りこれらの外来アリ類には刺されないようにすることが重要となる。では、どうやってヒアリ・アカカミアリを見分けるのか、という点が次の注意ポイントとなるが、巣が巨大になれば数10センチの蟻塚を作るというのが一般的に指摘される比較的わかりやすい特徴とされるが、そこまで巣が大きくなる前は比較的少数で働き蟻(ワーカー)がうろつくぐらいで、そうした歩いているアリを見て種を見分けることは普通の人にはまず不可能であろう……。

 また近づかなければ安全とされるが、どこにアリがいるかなんて、そう簡単には気づくことはなく、実際、筆者もフロリダに調査に行った際、調査後に食事をとるためサンダル履きでホテルの玄関を出た直後に1匹のヒアリに足を刺されたことがある。どのタイミングで刺されるかは予測不能なのだ。

 対策としては、もし、外で活動していて腕や足など体の一部に激しい痛みが走った時に、そこにアリを見かけたら、ヒアリかアカカミアリである可能性を疑い、一人になることを避けて、異常が生じた場合に即時に救護してもらえるよう「構える」という行動プロセスを日頃から心得ておくことが重要であろう。

 なお、ヒアリの形態的特徴と見分け方については下記のサイトが詳しいので関心のある方は参照いただきたい。怪しいアリを発見した時の連絡先も記されている。

ヒアリに関するFAQ:https://sites.google.com/site/iussijapan/fireant

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外来種によって脅かされる日本の自然を意識したい

 日本の生物相は他の大陸の生物たちと比較して、危険な有毒生物の種類が少なく、我々日本人も安心して自然に親しむ文化を育んできた。毒蛇や毒虫にビクつくこともなく草原や河川敷で腰を下ろしてレジャーを楽しむなんて環境は、他の国ではなかなか望めない。そんなマイルドな身近な環境が、今外来種によって改変されつつある。ヒアリが分布拡大を果たせば、もうお花見を楽しむことも難しくなるかもしれない。そんなリスクも元をたどればグローバル化に依存した我々のライフスタイルにあることをまず意識する必要がある。

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