新しい名前は「1179番」
月曜日と木曜日が運動日、風呂は火曜日と金曜日だけ。そのほか水曜日にシャワーを浴びることができると告げられた。
その後、ようやくわが新居である「Bの636号室」に到着。
そこは独房だった。思ったより狭い。
慣れる間もなく、
「1179番」
と、これまた新しい名前を呼ばれた。ついにボクは・数字・になってしまったのだ。ナチスドイツに囚われたユダヤ人のことを想った。
逮捕当日でも容赦なく好きなだけ取り調べをする検察特捜部
消灯時間である午後9時をまわっているにもかかわらず、再び房から連れ出される。今度はいったいどこへ行くのだろう。
長い廊下を歩き、ひとつの部屋に通された。そこにいたのはまたしても堀木検事。この人たちは逮捕当日であろうとも、容赦なく好きなだけ取り調べをするのだと知る。
「わたしは、これからもあなたのことを『籠池さん』と呼びますよ」
堀木検事は恩着せがましく、そうおっしゃった。
「お前は逮捕されたんだから、本来なら『カゴイケ』と呼び捨てにしたっていいんだよ」
とでも言いたいのだろう。
拘置所へ移送される前の弁護士との接見で、はじめて家内が逮捕されたことを知った。ボクの身はどうなったって構わない。でもまったくの無実である彼女まで道連れにされたことは衝撃だった。自分自身の逮捕よりはるかに怒りを覚える出来事だ。
「悪い人間がいるからわれわれが必要なんです」
さらにこの部屋で、逮捕後に豊中の自宅へ2度目の強制捜査が入ったと知らされる。
家内も拘禁されてしまっているので、家には次女しかいないはず。たったひとりで、あの多人数の捜査官たちに対応したのだろうか。考えただけでも胸が痛んだ。
マスコミの張り込みで、当時自宅から出られないボクに代わって犬の散歩を手伝ってくれていた俳優の大袈裟太郎君が、スマホでガサ入れの様子を中継し、YouTubeにアップしたらしい。でも、それも後になって知ったことだ。
堀木検事に対し、「検察はなんて封建的な組織なんだ」と憤怒をぶちまける。
「いやいや検察は市民のために働く組織ですよ」
「国策捜査だからどうしても逮捕するんだろう」
「籠池さんはいつもそう言ってるけど、この事件は国策でもなんでもないよ」
「特捜部なんか、なくさなアカン」
「悪い人間がいるからわれわれが必要なんです」
堀木検事は憤然と答え、お互いにらみあったまましばらく黙り込む。
このとき、長い戦いのゴングが鳴った。