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パチンコに半生を捧げた男たちが語る“業界の真実”――システムエラーが生んだ珍奇な生き物

「たいして勝てません」となぜ言えない?――『パチンコ滅亡論』(扶桑社)より #1

note

幻影を売るビジネスにどう立ち向かうか

大崎 構造的に客に負けさせないと成り立たない商売だから、今まで客を騙すことでそれを成立させてきた。勝てますよ、という幻想をエサに。真面目ぶるつもりは毛頭ないけど、そんな商売どうなの?って考えちゃうんだよ。

ヤング でもまあ、水商売って概ねそうだからね。キャバクラも、もしかしたらヤレるかも?っていう幻想を売るビジネスなわけだし。パチンコもキャバクラも共に風営法(*1)の管轄による規制というのも、そういう意味なのかな……って思うもん。

*1 風営法
パチンコを含む風俗産業を取り締まる法律。84年に「風俗営業取締法」から「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に改正されたため、風適法と呼ぶ人もいる。この法律を管轄しているのは各都道府県の公安委員会、つまり警察。

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大崎 でも、これから先も客を騙して金を巻き上げ続けるだけだったら、さすがに未来はないんじゃないとも思うわけで。ネットに溢れる情報を見れば、とっくに幻想が崩壊しているのは明らかだよね。

ヤング だからこそ我々はここ何年もずっと「納得して負けよう」と言い続けてるわけでね。幻想を追っても実りはないよ、って。

大崎 切り替えていかなきゃ、それこそアホになっちゃうもんな。業界にとっての「いい客」であることが、実は打ち手にとっても幸せな落としどころかもしれないという、かつてなかった発想の転換を提唱しているわけで。

ヤング 大崎さんも、ヤレないってわかってるのに銀座に通い続けてるもんな。客の鏡(笑)。

大崎 やかましいわ。勝たなきゃ意味ないじゃんっていう気持ちもわかるんだけど、でも、勝たなくてもおもしろいですよっていう知見も提供したいわけで……いやこれ、キャバクラで学んだんですけど(笑)。

合法でも違法でもない……根幹を成す「二大グレーゾーン」

閑古鳥が鳴くホールも増えてきている ©iStock.com

大崎 そもそもパチンコの正体が見えないものになってしまった最大の理由って「換金(*2)」と「釘調整(*3)」という、業としてのパチンコに欠かせない根幹の部分、この2つがグレーであるってことが原因なわけじゃん。セーフなのかアウトなのか、はっきりわからんもんが二大看板なんだから、そりゃ正体がはっきりするわけがなかろうって話だから。

*2 換金
しちゃダメだけどできるもの。日本の法律では公営ギャンブル以外の賭博は禁止されており、パチンコ屋で交換できるのはあくまでも賞品だけ。一般的な打ち手としては景品という言葉になじみがあるだろうが、法律上は一般景品も特殊景品も賞品という位置づけ
*3 釘調整
しちゃダメだけどされているもの。法律上では釘を曲げたらダメとなっているが、問題なのは長期間ある程度の釘調整は黙認されていたという事実。なんで昔はOKだったのに、ある時点からダメになったのか。この本を読み進めたら答えが載っている……かも

ヤング 建前上は釘調整ダメってなってるけど、現実は日本中のパチンコ屋が毎晩、釘調整を行ってる。いやいや、メンテナンスは認められている(*4)とは言うけど、じゃあ今でも当たり前に発生する釘曲げの摘発事例(*5)は何なのってね。

*4 メンテナンスは認められている
釘調整の新しい呼び方。釘調整は建前上禁止となっているが、それと同時に店のパチンコ台は検定通過時の状態を維持しなければならないという決まりもあるため「客がパチンコを打つ→大量のパチンコ玉が釘に当たる→釘が元の状態から変化→元に戻さないと規則違反になるんですよね→メンテナンスします!」というロジックが生まれる
*5 釘曲げの摘発事例
メンテナンスは全国で日夜行われているので、警察側が本気になればいつでも摘発可能。ただし、本気になる理由やタイミングが場所によってバラバラなため困っているらしいですよ、主にパチンコ屋さんが

『パチンコ滅亡論』(扶桑社)

大崎 換金も一応は違法性を阻却したスキーム(*6)が組み上げられていて、「お客さんの自由意思に基づき、近所に特殊景品を買い取ってくれる店がたまたまあった」ので、そこで買い取ってもらうという体でやってる。

*6 換金も一応は違法性を阻却したスキーム
パチンコはもともと、出玉を賞品に交換する娯楽の一種だったのだが、いつの間にかその賞品を買い取る人間が現れ(※主に暴力団)、暴力団の資金源になることを防ぐために三店方式という換金スキームが認められていったという経緯がある