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パチンコに半生を捧げた男たちが語る“業界の真実”――システムエラーが生んだ珍奇な生き物

「たいして勝てません」となぜ言えない?――『パチンコ滅亡論』(扶桑社)より #1

note

日本特有のガラパゴス的進化

大崎 欧米では非常に現実的な対応をしている国(*10)が多いよね。ギャンブルにしても売春にしても、あとドラッグの扱いもそうか。

*10 現実的な対応をしている国
カジノや売春、大麻などを含め、やみくもに禁止するよりも認めた上で管理したほうが社会的なコストが低いという考え方をする国も多い。税収が増える上にアングラビジネスも減って暴力団の資金源を減少できるという考え方はその一例

ヤング だよね。でもさっきも言ったように、日本ではなぜか、本音と建前をうまく使い分けて延々と先送りするやり方がしっくりくるというか……。若い頃にはわかんなかったけど、自分がオッサンになってようやく、これは一時のごまかしではなく、ある意味、立派な知恵なんじゃないかと思うようになったんだよ。だってグレーゾーンを突き詰めて完全に真っ白にしようとしたら、ろくなことにならんぞっていうことは、今の時代がまさに証明しているようなものじゃない。だとしたら、わかった上で薄目をあけて見て見ぬふりをするって、実は高度な解決法なんじゃないかなって。

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大崎 パチンコも、遊技という建前とギャンブルである本音、この間で独自の進化を遂げたよね。まさに「パチンコ」としか表現できないものに。

ヤング そうそう。これぞガラパゴス的な進化。ある集団があるとすると、一定数、それもかなりの割合でバクチをしたい人がいるのは、全人類、しかもいつの時代でも共通の話だと思うのね。一種の娯楽としてのバクチなんだけど、それを大っぴらに認めてしまうとすごく混乱が生じるから、社会生活を運営する上で賭博は禁止しますと。で、日本の場合は、正式にカジノを立ち上げる前に、もっと言えば風営法以前からパチンコが独自の進化を遂げ、それがおそろしく普及してしまった。「さてどうすんの?」っていうことなんじゃないかな。もちろんそれを支える大衆の欲望があっての話だけど。

日本製の携帯電話(ガラケー)もガラパゴス的進化を遂げた代表例のひとつ ©iStock.com

大崎 先送り、及び都合の悪いことは見て見ぬふり。その隙間でパチンコは体裁だけは遊技として、水面下では賭博性を上げるように、もっとお客さんが熱狂するように進化させていった。そうして今のわけのわからないものが出来上がったってことだよね。

ヤング 引き裂かれた状態が独自の進化を遂げさせた。ダブルバインドの産物っていうかね。「バクチはダメ。遊技でーす♪」って言いながら、どうやって射幸性を上げていくかっていうのが一大テーマでずっとやってきたわけだから。ある意味ヘルスのマットプレイと似たようなものなのかも(笑)。

システムエラーが生んだ珍奇な生き物

大崎 制約のあるなかでいかに詰め込んで細かいことをやるか、みたいな。そっち側の探求って、メイド・イン・ジャパンの工業製品に通じるものもある。

ヤング 大崎さんがよく言ってる「箱庭文化(*11)」だよね。盆栽もそうだし、あと俳句とも共通するマインドがあるかも。五七五という制約のなかでどれだけ宇宙を表現できるか、みたいな。また話を広げすぎと言われそうだけど、あながち的外れでもないと思うんだよね。

*11 箱庭文化
ジオラマや盆栽など、小さな空間に現実世界を模擬的に表現したもの。たしかに日本人は国土の狭さもあってか、コンパクトにパッケージするのが大得意。江戸後半から明治時代に流行った箱庭(当時のジオラマ)とパチンコを結びつけるあたりが面白い。でも、たしかに納得できる!