検疫は検疫法に基づく行為だ。検疫法には以下のように記されている。
「検疫所長は外国で検疫法第2条1号・2号に掲げる感染症が発生し、その病原体が国内に侵入し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときには、検疫法第2条1号・2号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者を停留し、また、検疫官に感染したおそれのある者を停留させることができる(検疫法第14条1項2号)」
検疫の目的は海外の感染症を日本に流入させるのを防ぐことで、命令を下すのは検疫所長だ。
日本で検疫が実施されるようになったのは、幕末の開国からだ。ペストやコレラなどが何度も流行した。1879年7月には「海港虎列剌病伝染予防規則」(のちに「検疫停船規則」と変更)が施行された。この規則は、戦後に検疫法に引き継がれ現在に至る(※このあたりにご興味がある方は、市川智生氏(横浜国立大学国際社会科学研究科)のレポートがお奨めだ<https://www.spf.org/opri/newsletter/172_2.html>)。
「明治以来変わらない」方法は妥当なのか?
感染のおそれがあるものを水際で停留させるという検疫の方法は明治以来変わらないが、当時と現在では社会状況は大きく変わった。例えば、海外旅行をする人の数は激増した。2018年度の訪日外国人数は3,119万人、出国日本人は1,895万人だ。
訪日外国人でもっとも多いのは中国人だ。2018年は838万人が来日した。2014年の241万人から248%増加している。
多くは航空機を使う。上海から羽田・成田空港までの所要時間は3時間30分、関西国際空港までは2時間30分、福岡空港なら1時間40分だ。クルーズ船を利用した場合でも、横浜から上海には2泊3日で到着する。那覇・上海間なら約40時間だ。
感染症には潜伏期間がある。新型コロナウイルスは平均5.2日だ。最長24日間という報告もある。潜伏期間は無症状だから、検疫は素通りする。ダイヤモンド・プリンセス号のように感染者が確認されれば、乗員乗客は長期間にわたり、停留されることになるが、もしいなければ素通りだ。これでは潜伏期の患者を見落とし、何の意味もない。
新型インフルでは113人の感染を見落とし、入国を許した
このことは2009年の新型インフルエンザの流行で実証されている。この時、厚労省は4月29日から検疫を開始した。メキシコからの流入を警戒したため、検疫の最前線に立ったのは成田空港だった。
成田空港では、5月末までの空港検疫で8人の感染を確認した。ところが、これは氷山の一角だった。