総トン数が10万トンを超えるクルーズ船の登場は、2000年代以降のロイヤル・カリビアン社のカリブ海クルーズの成功を受けて始まった。巨大クルーズ船の検疫については、これまでほとんど経験がない。
そして経験に乏しい日本は、従来と同じ方法で検疫を強行してしまった。その結果が、歴史に残る集団船内感染だ。一方、イタリアは柔軟に対応し、旅行客の健康を守った。2月12日現在、イタリアでの新型コロナウイルスの流行は確認されていない。
新型インフル感染者1人が鉄道に乗ると、5日で700人に
今回の検疫の問題は、これだけではない。私は、そもそも必要がなかったのではないかと考えている。
それは、水際対策に意味があるのは、国内で感染が広まっていない場合に限られるからだ。もし、すでに国内で流行していたら、水際対策は意味がない。ダイヤモンド・プリンセス号船内で感染が急拡大したように、満員電車による通勤・通学が常態化している日本では、新型コロナウイルスが一気に拡がるからだ。
国立感染症研究所感染症情報センターの研究者たちは、2008年に鉄道を介した新型インフルエンザの拡散をシミュレーションしている。
首都圏の鉄道に1人の新型インフルエンザ感染者が乗れば、5日目に700人、10日目には12万人に拡大すると予想している。こうなると水際対策など何の意味もない。
1月に日本を旅行したタイ人夫婦が感染していた
では、日本に新型コロナウイルスは入っていたのだろうか。状況証拠は真っ黒だ。
12月の中旬には中国武漢でヒト・ヒト感染が起こっていたことが確認されている。日本で水際対策が強化されたのは1月中旬だから、約1ヶ月間、無防備な状態であったことになる。感染者が入国していた可能性は高い。
2月4日、タイ保健省は、1月下旬に日本を旅行した夫婦が新型コロナウイルスに感染していたと報告した。日本滞在中に体調が悪くなったらしい。この夫婦の存在から日本国内で新型コロナウイルスが流行していることが懸念される。極めて重要な情報だが、日本ではほとんど報じられなかった。
様々な状況を考慮すれば、日本国内で新型コロナウイルスの流行が始まっていると考えるのが妥当だ。
厚労省も流石に検疫に意味のないことはわかっているようだ。厚労省関係者は「中国に対して渡航・入国禁止等の厳しい措置をとれない政府、与党に対する批判から目をそらす役割で隔離や消毒をパフォーマンスしているようにも思われます」という。これではクルーズ船内で感染した人たちは堪らない。
では、厚労省がすべきこととは?
では、厚労省は何をすべきだろうか。それは中国への渡航歴や濃厚接触に関わらず、希望者すべてにウイルス検査を受ける機会を提供することだ。正確に診断することができれば、効果が期待されるエイズ治療薬などを服用することができる。