英国人デビッド・アベルさんとサリー・アベルさん夫妻は英メディアのインタビューに答え、「船室の外に出られない。マスクをした乗務員が食事を持ってきて再び回収して行く。まるで監獄にいるようだ」と話している。
船内は医療体制も脆弱だ。フォーカス台湾は2月10日の記事で、乗客の台湾人男性のインタビューを紹介している。同乗している80代の父親に咳などの呼吸器症状が出現したが、船医は発熱がないのを理由にウイルス検査を実施せず、風邪薬を与えただけだった。服用後の身体の状態に対して尋ねられることもないという。さらに、男性の父親は不眠も深刻で、睡眠薬をまもなく使い切ってしまう状況らしい。
知人の看護師である山中弓子氏は、船内の状況を報じたテレビ報道を見て、「船内の様子を見ていると、感染させるプラントみたいになってる。食事もラップをかけずにオープンワゴンに乗せてキッチンから各居室へ配られていたし」とメッセージを送ってきた。
乗務員はベストを尽くしているだろうが、感染対策の専門家ではない。看護師から見れば、危険な行為が横行しているのだろう。これでは感染拡大は防げない。
部屋にこもるストレスで「体重・血圧・血糖値・中性脂肪が上昇」
高齢者が、このような状況に置かれると容易に健康を害する。我々の経験をご紹介しよう。
我々は東日本大震災以降、福島県浜通りで診療を続け、地元住民の定期的な健康診断をサポートしている。
2011年5月21、22日に飯舘村の村民を対象に健康診断を行った。564人が前年も健診を受けていたが、前年と比較し、体重・血圧・血糖値・中性脂肪濃度は有意に上昇していた。さらに12%がPHQ-9スコアで10点以上で、大うつ病の基準を満たした。
被曝を恐れ、約2ヶ月間、自宅に籠もっていた被災者の健康状態は急速に悪化していた。この地域では、原発事故後、脳卒中や肺炎が激増している。
武漢でも新型コロナウイルス感染で亡くなったのは、持病を抱える高齢者たちだった。長期間、自宅に籠もる生活のストレスにより、持病が悪化したことが影響していると考えている。
このような状況はダイヤモンド・プリンセス号の乗船者と全く同じだ。彼らが置かれた状況が如何に危険かお分かり頂けるだろう。
健康な若年者なら船内に閉じ込めてよいのか?
国際社会の批判を受けて、政府は持病がある人や高齢者などを下船させる方向で調整を進めているようだ。関係者の発言としてメディアが報じている。遅きに失した対応だし、健康な若年者なら船中に閉じ込めていいというなら、厚労省は今回の経験から何も学んでいないと言わざるを得ない。
ニューヨーク・タイムズは「(クルーズ船は)中国以外で最も感染者が多い場所」であり、停留を続けることが感染を拡大させると指摘している。今こそ、検疫の在り方をゼロベースで見直すべきだ。