ロシアの柔道界で近年、急速に台頭し、国際大会の代表選手を数多く輩出するようになった町道場がシベリア地方にある。

 その名も「イルクーツク森茂喜道場」。バイカル湖から流れるアンガラ川に面した、人口約62万人のイルクーツク市にある柔道クラブだ。意外なネーミングを持つこの道場には現在、ロシアおよびタジキスタンの代表選手5人が在籍している。中には昨年8月の世界柔道選手権(東京)で5位になった20歳の有望株もいる。

ソモン・マフマドベコフ選手

 この1月、イルクーツク森道場から12人のロシア人およびタジキスタン人の柔道選手が福島県いわき市にやってきた。同市で柔道による青少年の育成や国際交流を行なっているNPO法人「J-Spirit」の招きで来日した彼らは、日本全国から集まった高校生たちとの合同合宿に参加。5日間にわたってともに畳の上で汗を流した。

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いわき市の合同合宿の様子

シベリアになぜ? “森喜朗パパ”の名を冠した道場の謎

 それにしても、なぜシベリアの地方都市に日本人の名前のつく道場があるのか。どうして急激に強くなったのか。

 漢字を見てピンと来る人も多いと思うが、「森茂喜」とは森喜朗元首相の父である。1953年から1989年まで36年間にわたって石川県根上町長を務め、1950年代から「日ソ協会」の会長として旧ソ連との民間交流に尽力した政治家だ。金沢市とイルクーツク市は、森茂喜氏の橋渡しにより、1967年に姉妹都市提携を結んだ。そのため、現在もイルクーツク市の中心部には「金沢通り」がある。

 道場に「森茂喜」の名がついているのは、日ソ協会の会長を務めていた森茂喜氏がイルクーツクを訪れた際に、柔道教室を開いたことに由来する。やがてイルクーツク市が市内に小さな町道場をつくり、「森茂喜道場」と名付けられた。

「森道場」が突然強くなったのは、稽古場所を市内にあるロシアのナショナルトレーニングセンター「バイカルアリーナ」に移した2015年からだ。きっかけは、イルクーツク柔道連盟が、日本で3年間修行した経験を持つモンゴル人のウーガンバヤル・エルデネバダル(通称エリック)氏をコーチとして招聘したことだった。

ウーガンバヤル・エルデネバダル氏