文春オンライン

ロシアにある“森喜朗パパ”の道場、なぜ突然強豪に 柔道界の謎を取材してみた

2020/02/19
note

「体の小さい人が相手の力を利用して大きい人を投げることを『柔よく剛を制す』と言います。相手を引いたり押したりして、体を不安定な状態にしたところへ技を掛けるので、小さな力でも投げることができる。柔道の魅力のひとつはこれです。

 とはいえ、小さい人が大きい人を投げるのは大変なこと。日本人に比べ、身体能力がはるかに高いロシア人が日本人並みに技術を身につけたらどうなるか。ロシア人たちは、基本がちゃんとできれば強くなります」(田村コーチ)

 ちなみに、今回の来日メンバーの1人にはソモン選手の従兄弟であり、ロシア代表であるマフマドベック・マフマドベコフ選手もいた。年齢はソモン選手と同じ20歳、そして階級も73キロ級と一緒だ。こちらのマフマドベコフ選手は2019年世界ジュニア選手権の男女混合団体戦でロシアの銀メダル獲得に貢献している。

ADVERTISEMENT

マフマドベック・マフマドベコフ選手

「一番倒したい相手? 大野将平選手です」

 ソモン選手は東京五輪に出れば、73キロ級の金メダル最有力である日本のエース・大野将平(旭化成)と当たる可能性もある。

「夢はオリンピックでメダルを取ること。そのために、今はストイックな生活をしています。テレビやスマホを長時間見ない。ゲームもやらない。早寝早起きを心掛けて、安全な食べ物を食べるようにしています。一番倒したい相手? (照れ笑いをしながら)大野将平選手です」

ソモン・マフマドベコフ選手

 約70年前に森茂喜氏によって蒔かれた種が芽を出し、シベリアの町に根付き、21世紀の今、日本の匠の指導によって育っている。現時点では日本のトップとの差は大きいというが、ソモン選手はまだ20歳と若い。パリ五輪では日本選手と金メダルを争うことになるかもしれない。

 柔の精神を本格的に学び始めた「イルクーツク森道場」。ここがロシア柔道界の一大拠点になる未来が、いずれやってきそうだ。

(後編「小学生がロシア選手と対決?『原発に一番近い大学』の監督が語る、柔道と復興」を読む)

写真=松本輝一/文藝春秋

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

ロシアにある“森喜朗パパ”の道場、なぜ突然強豪に 柔道界の謎を取材してみた

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー