1月のある日の午前。福島県いわき市の東日本国際大学柔道場では、ロシアの「イルクーツク森茂喜道場」から海を越えて出稽古に来た12人の選手たちが、日本の高校生たちと乱取りをしていた。
外は雨が降って冷え込んでいるが、柔道場には熱気が溢れている。それもそのはず、東北地方最大と謳われる330畳のタタミが敷き詰められた道場では、100人近い選手たちが動きを止めることなく、組み合っていた。
(前編「ロシアにある“森喜朗パパ”の道場、なぜ突然強豪に」を読む)
午後にはいわき市内の複数の道場の小学生約100人がやって来て、柔道教室が開かれた。「森道場」から来ているロシア代表選手やタジキスタン代表選手たちも、ちびっ子たちの指導に大奮闘。寝技の稽古では子どもたちが真剣な顔で大きな選手を相手に技を掛けようとがんばっている。
そんな子どもたちを目を細めながら見つめていたのが、2017年にNPO法人「J-Spirit」を立ち上げ、代表を務める大関貴久氏(東日本国際大学柔道部総監督)だ。同法人は国内外のジュニア柔道選手を指導・強化する事業を行い、青少年柔道の育成に寄与することを目的とする非営利団体。2018年1月から始まり今年で3度目となった「森道場」の来日プロジェクトを主催している団体でもある。
福島とシベリア地方の町道場につながりができたのはなぜか。いきさつを取材してたどり着いたのは、2011年3月11日の東日本大震災だった。
柔道部立ち上げから約10年、道場建設の8ヶ月後……
まず、話は約20年前にさかのぼる。日本体育大学を卒業した大関氏が、東日本国際大学で教鞭を執りながら柔道部を立ち上げたのは1997年。強化は順調に進み、2009年には東日本学生大会で初優勝を果たした。そうした実績を鑑みて、大学がプレハブの柔道場を建設したのが2010年7月である。
ところがそれから約8カ月後の2011年3月に未曾有の大震災が東日本と福島を襲った。震災によって柔道場の隣にあった女子寮は壊れ、柔道場は女子学生の臨時避難所として活用された。タタミが敷かれているため、避難施設として高い機能性を発揮したという。