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2020/02/19

 震災後、国は福島第一原発から30キロ圏内に避難指示を発令。東日本国際大学があるいわき市中心部は原発から約40キロで、「自主避難」のエリアだった。地震から数カ月がたつと、生活は少しずつ落ち着きを取り戻していったが、次は風評被害の問題が膨らんでいく。福島へ来る人は激減し、地域で柔道をする子どもたちも減った。

柔道教室での子どもたちの笑顔を見て

 誰もが胸を痛めていた2011年夏、大関代表の母校である日本体育大学の柔道仲間がいわき市で柔道教室を開いた。1995年福島国体で優勝した経験のある田辺勝氏(現日本体育大学男子柔道部監督)と、1996年アトランタ五輪金メダリストの中村兼三氏(現旭化成柔道部総監督)の呼びかけで集まったのは、地域の子ども約60人。ひさびさに子どもたちの笑顔が溢れる様子を見た大関氏は「復興のためにはこういう企画をしていくことが大事だ」と確信した。

今年1月に開催された柔道教室に参加した子どもたちと「森道場」の選手たち

 ときを同じくして、北海道の地で東日本大震災に心を痛めている人物がいた。柔道の強豪校として知られる旭川龍谷高校で教頭を務める安藤弥氏である。

 天理大学柔道部出身の安藤氏は、以前から高校生の強化には学校単独では限界があると考え、いくつかの高校に声を掛け、2007年から毎年2月に岩手県や宮城県女川町で大学生との合宿を行なっていた。地域の人々の優しさや気遣いに支えられながらの合宿だった。

 しかし岩手県も女川町も東日本大震災により甚大な被害を受けた。旅館が流され、関係者の安否も分からない中、安藤氏は柔道部の生徒が率先して寄付金を募ったり、物資を集めたりする活動を束ねながら、被災の現状に触れた。

「東北の人はいい人ばかり。高校生たちの合宿をすることで復興支援ができないものかと考えました」

旭川龍谷高校教頭の安藤弥氏

 高校柔道界には出身大学の垣根を越えた広い人脈がある。2012年3月に風評被害で温泉街から客足が遠のいてしまった福島県三春町で合宿を行なうと、今度は同じくいわき市にも人が集まらなくなっている事態を知り、2015年からはいわき市の東日本国際大学で合宿を始めた。今では毎年1月にいわき市で、そして3月には三春町で合宿を行なっている。放射能の数値を測って安全を確かめながらの合宿開催である。

 このように活動が広がる中、「イルクーツク森道場」から「日本で合宿をしたい」との希望を受けた大関氏が2017年に「J-Spirit」を立ち上げ、2018年1月から「森道場」の選手が参加するようになったのである。