文春オンライン

ロシアにある“森喜朗パパ”の道場、なぜ突然強豪に 柔道界の謎を取材してみた

2020/02/19

 18歳で出た2017年世界ジュニア選手権66キロ級で銅メダルを獲得し、その後階級を73㎏級に変更。昨年8月に東京で行なわれた世界選手権では5位と健闘した。そして、同年10月の世界ジュニア選手権では全試合で一本勝ちを収め、タジキスタン選手として初となる金メダルを獲得した。

 勢いは止まらず、11月の大阪グランドスラムでは、準々決勝で海老沼匡(ロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪66キロ級銅メダル)に敗れたが、3位決定戦で立川新に勝って3位になった。

 身長183センチ。懐の深さを生かした大外刈りや、大内刈り、内股を得意とする。現在は大外刈りを強化しているところ。下がらず、前に出続けることを身上とするホープが目指しているのはオリンピックのメダルだ。

ADVERTISEMENT

ソモン・マフマドベコフ選手

ロシアの選手たちが直面する「組手」問題

 ここ半年でソモン選手が急激に強くなった背景には、日本人柔道家の指導がある。「J-Spirit」から昨年5月にイルクーツク森道場へ派遣された田村徹六段が、正しい組手を教えてから、技に磨きが掛かったのだ。

 柔道の正しい組手とは、中指、薬指、小指の3本で道着をつかみ、親指と人差し指は添えるだけである。しかし、ソモン選手をはじめとするイルクーツク森道場の選手たちは、この基本が出来ていなかった。親指、人差し指、中指の3本で握るため、肩に余分な力が入ってしまっていたのだ。

こちらが正しい組手。中指、薬指、小指の3本で道着をつかむ

 こうした癖は、試合にも影響していた。ソモン選手が語る。

「15歳から国際大会に出場してきましたが、ある程度の距離で相対する日本の柔道は、力まかせの接近戦が多いロシアのそれとはまったく違う。昨年のパリグランドスラムで橋本壮市選手と試合したときにすごく悔しい思いをしました。当時は、日本の柔道にまったく対応できなかった」

 

 体にしみついたやり方を変えるのは大変だったが、ソモン選手は「強くなるために必要だから」と、日本流の組手に意欲的に挑戦した。その甲斐あって、昨年10月の世界ジュニア選手権で優勝し、タジキスタンから表彰を受けるまでになった。今では、自国で町中を歩いていると声をかけられ、記念撮影をお願いされるスターだという。

  田村コーチはソモン選手についてこのように語る。

「彼は日本人に近い。性格が素直で裏表がなく、言ったことはちゃんと聞く。それに、一生懸命です」

田村徹コーチ

ロシア柔道の驚異的なポテンシャル

 ソモン選手の驚異的な伸びっぷりは、ロシア柔道全体のポテンシャルを物語っている。