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ロシアにある“森喜朗パパ”の道場、なぜ突然強豪に 柔道界の謎を取材してみた

2020/02/19
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モンゴル人コーチが持ち込んだ“日本流”

 エリック氏は1974年、モンゴル・ウランバートル生まれ。男子65キロ級(後に66キロ級)のモンゴル代表としてアジア選手権などで活躍し、現役引退後に日本の大学で3年間、柔道を学んだ。

 エリック氏は日本の大学に来た理由をこのように語る。

「現役時代の私は、アジアの大会に出るといつも最後は日本人に負けて、成績は最高でアジア3位でした。中村行成選手(アトランタ五輪男子65キロ級銀メダル)には2回負けましたし、鳥居智男選手にも負けました。勝ったことがあるのは浅見重紀選手。モンゴル相撲のような技で勝ったので、反則気味だったかもしれません。

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 とにかくいつも不思議だったのは、力は自分の方があるのに、なぜ負けるのかということです。日本の柔道を学びたいと思ったのはそれが理由です」

 一念発起したエリック氏は、27歳で現役を引退した後、国際武道大学に2年間、日本体育大学で1年間を過ごした。その間、日本全国のあちらこちらの道場にも行った。こうして、柔道の基本を日本で身につけたエリック氏が、イルクーツク森道場に日本流の指導を持ち込み、飛躍的な強化を実現させたのである。

「森道場」がいわき市での合宿に参加するようになったのは2018年からだが、合同合宿が実現した流れの中には奇遇な巡り合わせもあった。

いわき市の合同合宿の様子

 エリック氏は、合宿を主催するNPO法人「J-Spirit」の代表である東日本国際大学柔道部総監督の大関貴久氏と、同い年。10数年前から嘉納杯などの国際大会で顔を合わせているうちに杯を交わす機会があり、今では大の仲良しだ。エリック氏が2015年に「森道場」のコーチに就任した後、日ロの柔道交流がスムーズに進んだのは、2人の密な関係も大きいようだ。

「森道場」の注目株は照れ笑いがチャーミングな20歳

 今回の「森道場」からの来日メンバーの中には、世界的に注目を浴びている男子73キロ級のタジキスタン代表、ソモン・マフマドベコフ選手もいた。

ソモン・マフマドベコフ選手

 ソモン選手は1999年3月24日にイルクーツクで生まれ、7歳で柔道を始めた。柔道一家出身のため、「柔道以外のスポーツは考えられなかった」と本人は笑う。幼い頃から強かった彼は、ロシアとタジキスタンの二重国籍の中からタジキスタンを選択して代表になった。