「ひきこもり女性はいない」という声は本当だろうか? 実際にひきこもり当事者の支援を行っている人々の間ですら、ひきこもり女性は現実の問題として取り上げられていない。内閣府は「ひきこもりの男女比は7:3」との調査結果を報告しているが、実はたった「47人の当事者」を調査したデータにもとづいているのだという。これではひきこもりの実態を捉えているとは到底言えないだろう。

 さらに、ひきこもり女性たちが陰に隠れてしまっている大きな理由のひとつに、7割近いひきこもり女性が「男性が苦手、怖い」と感じていることがある。また性被害を受けたことで、ひきこもるようになってしまった女性も少なくない。

下流老人』などの著作で知られる藤田孝典氏の新著『中高年ひきこもり』(扶桑社新書)から、ひきこもり女性の実態を一部抜粋して紹介する。

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可視化しづらい女性のひきこもり

 ひきこもりについて語る際、「ひきこもっている人=男性」とイメージする人は多いかもしれない。

「ひきこもりUX女子会(2016年6月にスタートし、2019年4月までに全国各地で計80回開催)」を主催する一般社団法人ひきこもりUX会議の代表理事である林恭子氏は以下のように述べている。

「内閣府の調査結果によれば、男性の割合が8割近くを占め、男女比は7:3くらいとなっていますが、不登校の調査では、男女は1:1なので疑問が残ります。

 実際、私たちが開いた当事者会などのイベントにも、女性はたくさん訪れます。内閣府側は、40歳以上の中高年ひきこもりの対象には、『主婦』と『家事手伝い』を入れたと言っていますが、今回の調査は5000人を対象にしているものの、ひきこもり当事者はわずか47人しか調査できていません。

 その47人から得られた『男性7:女性3』という結果をもって、ひきこもり全体の男女比と考えるのが妥当なのか。実態を表した数字とは、いえないと思います。

 そもそも、中高年ひきこもりが約61万人という数字も疑わしい。専門家のなかには、少なく見積もっても100万人、最大で200万人いるのでは、という方もいます」

 実は、当事者会やひきこもりのための居場所など、ひきこもり支援の現場でも男性参加者がおよそ9割を占めるという状況が、ここ20年ほど続いているという。そのため、ひきこもり支援者の間でさえ「女性はいない」との声が上がるほど、女性のひきこもりは可視化されていない。

支援の手からもこぼれ落ちる

 とりわけ自助会のような場には男性の参加者が多いため、女性は居づらくなり、継続しての参加が難しい。そういった状況に危機感を抱いた林氏らは、女性だけで自助会を開催すれば、女性のひきこもりの人たちも参加するのでは、と考えて「ひきこもりUX女子会」を立ち上げた。

 女子会を始めて約3年が経過し、参加者は延べ3300人を超えた。その参加人数に鑑みても、女性のひきこもりが決して少ないとは言えない。

 林氏らは現在、「ひきこもりUX女子会全国キャラバン2019」と「つながる待合室」というイベントを開催し、全国8都市を回っている。そこで出会う各都市の行政や支援団体の関係者は、「うちでもイベントを開いているけれど、女性のひきこもりの方は来ません」と口にするという。

 そのため、イベントに数十人単位で女性が参加するのを目の当たりにした関係者でさえ、「(女性のひきこもりは)いたんだ」と驚きを隠さない。

『中高年ひきこもり』(扶桑社)

 つまり、行政や支援者でさえ、「女性のひきこもりはいない(あるいは極めて少ない)」というのが共通認識になってしまっており、なかには「女性のひきこもりなんていないし、ましてや主婦のひきこもりなんているわけがない」と言い放つ人もいるなど、まったく女性が見えていないのが実情だ。

 本来セーフティネットとして機能すべき支援団体からも、女性のひきこもりはこぼれ落ちてしまっている。