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「正社員になれなければ死ぬか?」“家事手伝い”が死語になり、ひきこもり女性は何を思うか

『中高年ひきこもり』(扶桑社新書)より

2020/02/19
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「いつ帰ってもいい」ひきこもり女性見守る交流会

 さらに、ひきこもり女性には、精神科を受診していたり、パニック障害やリストカットに苦しんでいるケースが、男性に比べて圧倒的に多いという。本来、ひきこもりは「社会的ひきこもり」を意味しており、定義としては「6か月以上自宅にひきこもって社会参加をしない状態が持続し、他の精神障害がその第一の原因とは考えにくいもの」とされている。

 つまり、病気や障害が原因ではないのに、外出できない状態がひきこもりなのだ。ところが、現状では精神疾患を巡り、境界線が極めて曖昧になっている。

 林氏は言う。

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「私たちのひきこもり女子会でも、会場までやっとの思いでたどり着くという人は多いです。電車に乗るのもしんどいので、各駅停車にしか乗れず、駅に到着するたびに電車を降り、1駅ずつ乗り降りして会場にくる人もいるし、会場の最寄り駅まで着いたけれど、会場のある建物までたどり着けなかったという人もいる」

©iStock.com

 こうした心身状態なので、林氏は会場を訪れた参加者に対し、「いつ帰ってもいい」と伝えている。会場内にも非交流スペースを設け、建物内のどこにソファがあるかをアナウンスし、具合が悪くなったり、疲れたらいつでも休めるような配慮をしているという。

 残念ながら現在の日本では、行政が女性に特化した支援はもちろん、配慮さえまったくなされていないのが実情である。林氏らの団体においても、行政に対し、女性に特化した支援を要望しているというが、今回の内閣府の調査結果に見られるように、そもそも女性のひきこもりの存在さえ見えていないのが現状なのだ。

 ただ一方では、大阪府豊中市の調査で、「ひきこもりの6割が女性」という結果が得られている、と林氏は指摘する。このことは、調査方法や回答者との信頼関係によって、真実に近い数字が出てくる可能性を示唆しているのかもしれない。政府や民間ともに継続的に中高年ひきこもり女性の調査を行い、実態を明らかにする努力が今後も必要であろう。

家事手伝いという“肩書”

「男性=外に働きに出る」「家にひきこもっているのはおかしい」といった考えは古いジェンダー観の表れともいえる。一方、女性のひきこもりは「家事手伝い」ということにされてしまえば、存在が消されてしまう恐れもある。

「私が若いころは、まだ世間に『家事手伝い』という存在は少なくなかったし、苦しんでいたり、困っているというわけではなかった。カジュアルに『学校卒業後は2、3年、家の手伝いをして、その後に結婚しよう』という女性もいましたから」と林氏は言う。