ところが、現在の20代、30代の女性の間では、「家事手伝い」という言葉は死語となりつつあり、むしろ働かなければならない、というプレッシャーを強く感じている。こうした若い世代の女性のひきこもり当事者は、「家事手伝い」という“肩書”を言い訳に使えないほど重圧に苦しんでいる。

 また、ひきこもっている女性当事者はかなり苦しんでいるが、家族の介護や介助という名目で、ひきこもりの事実を隠されてしまうこともある。実際、中高年ひきこもり女性で、親や家族の介護をしている人たちが非常に増えているという。

 林氏は言う。

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「今は20代、30代の女性にとっては『家事手伝い』という言葉は、大した意味を持たなくなっているので、

『自分は家事手伝いですとは、とても言いにくいし、言えない……』

『もしそう言ったとしても、誰も認めてくれないだろうし、無職と言うしかない』

 というひきこもり当事者もいました」

 一方で、男性が「家事手伝い」ではいけないのか、という意見もあるだろう。本来、男性の「家事手伝い」がいても何ら問題はないはずだ。

 中高年ひきこもりの男性当事者の一部には、「『自分は家事手伝い』と言っていこう」「『家事手伝い』という肩書を利用しよう」という声もあるという。生きにくさを緩和する方法として、「家事手伝い」という“肩書”を利用するならば、その人々が差別される理由はないだろう。

親が死ぬことへの恐怖

 林氏は言う。

「私の周りの50代の当事者たちは、介護していた親を次々に看取っており、家はあっても孤立してしまう恐れが生じており、対策が急がれます。当事者に『もっとも怖いことは何?』と問いかけると、『親が死ぬこと』という答えが一番多いけれど、それも当然です」

 現在、特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会とつながりがあるOSDよりそいネットワークがこの問題に取り組んでいる。「OSD」とは、「親が、生前に、できること」の頭文字である。さらに、ひ老会(ひきこもりと老いを考える会)も同様の取り組みを行っている。

「親が死んだらどうする?」という問題は、すべての中高年ひきこもりに重くのしかかっているが、その実情は把握しにくい。林氏が続ける。

「当事者が生きていてくれることが最重要です。中高年ひきこもりがこの問題をうまく解決できなければ、特に男性当事者は孤立死に直結してしまう恐れがある。男性当事者が『助けて』と言いにくいのは、『男らしくあれ』『つらくても我慢しなければならない』といった男性像から逃れられなかったり、男性としてのプライドが邪魔をしたり、多分にジェンダーバイアスが絡んでいるのではないでしょうか」