「中高年ひきこもり」が増えている。2018年度の内閣府調査では、40歳から64歳までの中高年ひきこもりは61.3万人が存在するという推計値がはじき出された。15~64歳までのひきこもりの全国推計の数は115万人なので、半数以上が「中高年ひきこもり」であることがわかる。
今回は藤田孝典氏の著書『中高年ひきこもり』(扶桑社新書)から、まさしくその当事者の一人である、49歳・男性・大川良雄さんのインタビューを一部転載する。
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大川良雄さん(仮名・49歳・男性)の場合
【家族構成】
父(70代後半)、母(70代後半)、妹(年齢不明)
【ひきこもりのきっかけ】
新卒で就職後、半年で離職
【ひきこもり期間】
20代半ばから。現在「断続的ひきこもり」ともいえる状態
【現在の様子】
・ひとり暮らし
・ひ老会(ひきこもりと老いを考える会)に参加している
ひきこもりのきっかけ
「大学を卒業後に就職したのはファストフードの会社で、店長候補としての入社でした。
でも、半年足らずで退職してしまい、なんとなく公務員を目指して公務員受験の専門学校に入りました。ただ、身が入らず、当然合格もできず、20代半ばになると専門学校にも行かなくなり、表向きは『公務員浪人』とは言ってましたが、何もせず親と同居する家でごろごろしてました。こんな状態が30歳くらいまで続きました。
この時期、28歳くらいのとき、3か月だけアルバイトをしたことがあります。近所の総合病院で、給食の盛り付けや洗いものなど、簡単な仕事をしてました」
大川さんの話からは、店長候補ということもあって、希望や期待を抱きながら社会人生活を始めた様子が窺える。しかし、想定していた職場や労働環境ではなく、およそ半年後に、離職を経験する。筆者も大学教員なので、多くの大学生を企業に送り出している立場だが、1年以内に離職を経験する卒業生は珍しくない。
なぜ新卒学生が大量に1~3年で離職をしていくのか。これについては、今野晴貴著『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書・2012年)を参照してほしい。初めから大量採用し、大量離職させる人事システムを採っている企業の存在を豊富な事例から検証している。つまり、大川さんのケースもそうだが、本人の問題ではなく、企業システムの犠牲者であるということだ。
社会に出て最初の大きな挫折を経験した人が自信を喪失したり、他者を信頼できなくなったり、夢や希望に空虚さを感じてしまうようになっても不思議ではないだろう。
近年は、働き方改革や労働環境の整備と簡単にいうが、人間の尊厳を奪ったり、人間を大事にしない環境や労働形態こそ、今すぐに撲滅すべきである。これらのいわゆるブラック企業は中高年ひきこもり要因になるだけでなく、大川さんのような有意な人材をつぶしてしまうことで、社会的損失にもなっている。
「いつまでも何やってんだ!」
「親は、私が『公務員浪人』中と信じていたので、『なんで、何度も受からないの?』『勉強はちゃんとしてるんでしょ?』と、たまに聞いてくるくらいでした。ところが、“浪人”が長くなると、だんだん不審に思ったのでしょうね。本当に勉強しているか、確認するようになりました。ただ、今振り返ってみると、実のところ、親がどう思っていたのかわからない。まったく勉強していない事実を信じたくないのか? 人がよくて信じていたのか? いまだに本当のところはわかりません。
親との関係は、表立って悪いということはなかったけれど、特に父親は、口には出さないまでも『いつまでも何やってんだ!』『公務員になりたいのはいいが、なんで受からないんだ!』『ちゃんと勉強しているのか?』という感じで、かなりイラついているのは感じました。激しい衝突はなかったけれど、勉強しているかをチェックするため、ときどき私の部屋に来たりしていましたね。
父親は私が物心ついたころから、『とにかく一流大学に入って、一流企業に入る』というコースを歩ませたかったので、子どもにかなり介入する親でした」