日本では若者やひきこもり当事者への公的な住宅支援がほぼ皆無である。公営住宅は乏しく、広範な家賃補助制度もない。結局、家族が住宅費負担をすることになり、家族が負担できなければ、耐えがたい同居が続くということになる。
ひきこもり中の生活サイクル
「親と同居の実家でひきこもっていたころは、昼夜が逆転して、深夜の3、4時に寝て、起きるのは昼すぎという生活でした。
ひとり暮らしになってしばらくは、何もせずにひきこもっていました。だから、外出は、近所のコンビニやスーパーで買い物するときくらいです。
当時は、『早くこの状態から抜け出さなきゃ』『社会復帰できなくなる』という不安や焦りはありませんでした。なぜか、公務員試験に受かるんじゃないか、と思っていたんです。まだ受験資格のある年齢だったからかもしれませんが。公務員にも職種がいろいろあって、探してみると、まだ受けられるものもあったんです」
大川さんだけではなく、ひきこもり当事者に昼夜逆転、深夜まで起きているという人は多い。自問自答を繰り返したり、毎日何かを考えていたり、休むことができない環境にあると捉えるべきだろう。
何かに取り組むにも生活習慣の乱れは効率を低下させるだけでなく、健康悪化を招く。ひきこもり当事者が日々何かを考えて、悩み苦しむ環境から解放できるような手立てが必要だろう。
ひきこもり当事者はのんびりしている、深夜まで自堕落な生活をしている、というのではなく、悩みや不安を紛らわせるために起きていたり、寝付けないという声も多く聞いている。
ひきこもっている間、仕事をすることも……
「ひとり暮らしをするようになって8か月後くらいから、アルバイトで働きはじめました。最初は、パン工場の深夜の製造補助。1か月ほどで辞めてしまいましたが。その後は働いたり、働かなかったりで、半年以上、無職のときもあったし、逆にポスティングのバイトは4年ほど続いたり。ただ、ポスティングはひたすらチラシを投函する仕事なので、職場の人間関係に悩むこともなかったからでしょうね。
今は、1年半ほど前から、障害者の作業所でアルバイトしています。ひきこもっている間で、働いてる期間と何もしていない期間は、トータルで半々くらい」
ひきこもり当事者はずっと何もしていないのか、というとそれも違うことがわかるだろう。試行錯誤をしながら、社会と接点を持ったり、自分に合う仕事を探すための模索を続けている。
大川さんにはポスティングのアルバイトを4年ほど継続する力がある。また現在は障害者の作業所で仕事もできている。
要するに、本人に合う仕事を本人の希望に応じて見つけていくことが大事である。現在は仕事や居場所が見つからないからといって、悲観する必要はまったくない。
機が熟したり、状況が変われば、心身の状態にも変化が生じる。大川さんもそうであるが、ひきこもり当事者や経験者は、焦り過ぎないことが大事だと教えてくれる。
このような経験を実際に当事者の会や家族会で聞いてみるだけでも救われるのではないだろうか。