牛の配合飼料は外国産が主流だが、同会は遺伝子組み替えをしていない国産飼料100%での生産を求めた。山形地区の畜産農家は10年がかりで研究して実現した。94年には、同会などへ加工品を出荷するために、市(当時は山形村)とJAと同会が出資して第三セクター「総合農舎山形村」を設立した。
輸入自由化 や原発事故の風評被害にさらされる
こうして両者の絆は深まり、同会は毎年、泊まりがけで生産者との交流会を開いている。
「年間500~600頭を出荷していた時期もあります」と泉山さんは話す。
だが、91年に牛肉の輸入が自由化されると、外国産の赤身肉に押されて生産量が減った。2008年のリーマンショックでも消費が冷えた。さらに11年、東日本大震災による東電福島第1原発事故では、取引を断る出荷先があった。岩手県南部の牛肉から基準値を超える放射性物質が検出され、風評被害に遭ったのだ。
岩手県は北海道に次ぐ面積を持っており、原発からの距離で言えば、山形地区は静岡県熱海市と同
“赤身肉ブーム”で一気に注目が集まる
ところがその後、和牛を取り巻く環境はがらりと変わる。赤身肉ブームが訪れたのだ。健康志向の高まりで、脂の多い肉を敬遠する人が増えたのである。
霜降り肉が美味しいのは、脂肪に味と香りがあるからだ。一方、赤身肉は筋肉にうま味成分が豊富に含まれる。特に日本短角種はイノシン酸やグルタミン酸などが他種より多い。しかも脂肪が邪魔しないので、量を食べられる。
日本短角種は一気に注目された。
ただ、危機が去ったわけではなかった。「生産農家が依然として減少しているのです。これではブームになっても、要望に応えられない」と、生産者の中屋敷稔さん(45)は表情を引き締める。中屋敷さんはJA新いわてで「くじ短角牛肥育部会」の部会長を務めている。
山形地区で日本短角種を飼っている農家は約30軒しかいない。そのうち肉になるまで飼養する肥育農家は、中屋敷さんを含めてたったの13軒だ。
中屋敷さんは36歳で就農した。それまでは東京や盛岡で飲食関係の仕事をしていて、祖父の代から続く畜産に携わる気はなかった。だが、帰省した時に食べる日本短角種は他の肉にない美味しさがあった。「外に出て初めて良さを知ったのです」。生産量が少ないので実家でしか食べられない味だった。