「和牛」といえば、日本人が生み出した日本固有の牛の品種だ。
その霜降りの肉の旨さは、いまでは世界中に知れ渡り、日本からの和牛の輸出量もここ数年で飛躍的に伸びている。
中国は日本からの牛肉輸入を禁止しているが……
そんな和牛の受精卵や精子を中国に持ち出そうとした男2人と、提供した徳島県の畜産農家がこの3月に逮捕された。
事件は昨年6月のこと。大阪から上海に向かうフェリーに、凍結した受精卵や精子のストロー365本を金属容器に入れて運び出したものの、検疫などの必要な手続きを受けていなかったことから、中国の税関によって持ち込みを拒否される。そのまま持ち帰り、日本の動物検疫所に申告したことから発覚した。直接の逮捕容疑は、正式な手続きを受けずに国外に受精卵や精子を持ち出した家畜伝染病予防法違反と関税法違反だった。
もし仮に、そのまま中国に持ち込まれていたとしたなら、日本が開発した農業資源、それも「遺伝情報」という知的財産が流出したことになる。
中国でも和牛の人気は高い。彼らは、その旨さを知っている。ところが、2001年に日本でBSE(牛海綿状脳症)が発生した直後から今日まで、中国は日本からの牛肉の輸入を禁止している。「攻めの農業」を政策に掲げ、農産品の輸出拡大を目指す安倍政権が中国市場の開放をこれまで求めてこなかったのも理解に苦しむ話だが、中国国内には、香港や隣国のベトナム、カンボジアなどを経由して日本の和牛が流通しているとされる。
和牛の海外流出はとうの昔にはじまっている
そんな人口13億人を超える巨大市場に、中国産の和牛が大量生産されて出回れば、これほど大きなビジネスはない。日本のお株を奪うように、輸出事業にまで展開されると、本家の日本の畜産業にも打撃が及ぶ。
今回の事件は、中国の牧場関係者の依頼によるものとされる。逮捕された畜産農家は2014年以降、5回の持ち出しがあったと供述している。
他国の知的財産を盗む中国。米中貿易戦争の引き金ともなり、今回はその被害者である日本。取り締まりを強化し、早期にその対策を打ち出すべきだ。――そう言いたいところだが、もはや和牛の遺伝情報の海外への流出は、とうの昔にはじまっている。それは中国だけの話ではない。現実に海外での外国人による和牛生産は、すでに頻繁に行われている。いまさら対策を講じたところで遅きに失する。そのことを日本人は知らない。