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「但馬和牛」がオーストラリアで生産されている

 かつて私が訪れたタイのレストランでのことだ。こんなメニューを目にした。サンプルとして映し出されたリブロースのステーキには、オーストラリアの国土と国旗をイメージした小旗が刺さっている。ところが、メニューのタイトルには英語で「TAJIMA WAGYU」とある。つまり「但馬和牛」だ。

かつてタイで目にした「TAJIMA WAGYU」のメニュー ©青沼陽一郎

 解説文には、「500日間穀物を与えたオーストラリアの和牛/“但馬”の農場(起源は日本の神戸)で繁殖した血統の牛」とある。このあたりの解説は正確ではなく、実際には兵庫県で育った但馬牛の中から、神戸の食肉加工場で食肉加工され、認定されたものだけが「神戸ビーフ」となる。いずれにしても重要なことは、「但馬和牛」がオーストラリアで生産されて、第三国に輸出され、消費されていることだ。

 実は、日本からの和牛が輸入禁止の中国でも、オーストラリア産の「WAGYU」が売られている。中国とオーストラリアは自由貿易協定(FTA)が発効しているから、牛肉も安く入る。日本のブランド和牛が、まったく日本と関係ないところで取引されている。

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飛行場を改良したという牧場

 いや、それだけではない。もっと衝撃的な事実を知ったのは、米中貿易戦争を招いてまで知的財産権の保護を強調する米国でのことだった。

 カウボーイの国として知られる米国では、一定の月齢に達した数十頭、数百頭の子牛を買い付けると、四角い柵で囲まれたロット(lot)と呼ばれる区画の中に入れ、餌を与えて肥らせる。このロットがいくつも並んだ肥育場がフィードロット(feedlot)と呼ばれるいわば牧場である。周密肥育による大量生産が可能になり、食肉相場を睨みながら、ロットごとに牛たちが出荷されていく。

 5年前に私は、米国中西部カンザス州にあるフィードロットを訪れていた。その広大な敷地を経営者の運転するピックアップトラックに乗って案内されていた。飛行場を改良したというその場所は、そうでもしないと見て回れない。

敷地が広大すぎるため、ピックアップトラックで牧場内を移動する ©青沼陽一郎

 左右に並ぶロットにはそれぞれに番号が振ってあって、その中に高級品種として知られるブラックアンガスなどがいる。牛たちは横に張られた柵棒の間から頭を出し、ロットの外側の溝に敷かれた餌を頬張っている。

「このロットのブラックアンガスは、おそらく高級なレストラン、スーパーマーケットに卸されるだろう」

米国カンザス州のフィードロット(Feedlot=肉牛肥育場)