サケの回復には、河川生態系の修復が不可欠
さらに、帰山さんはサケの保全にあたり、「孵化放流」のみでは解決ができないとしています。
人工孵化によって飼育・放流されたサケは、野生のサケに比べて環境の変化に適応する力が弱く、また野生のサケよりも栄養段階が低いため、生態的な地位も低いようです。例えば、ベーリング海などでは野生魚が成長に最適な沿岸部や大陸棚に分布し、孵化場魚は沖合へ追いやられてしまうと言われています。サケ幼魚は日本周辺の沿岸生活期と海洋での最初の越冬時に著しく減耗します。孵化場魚は、特に温暖化のように不適な環境になると野生魚より適応力が劣るため、著しく減耗するようです。
そこで必要となるのが、「地球温暖化などの環境変動下における、サケの持続可能な保全管理」。野生のサケの回復には、河川生態系の修復が不可欠です。そのためにはまず、地球温暖化によって海や河川の生態系がどのように変化したかを解明し、調査研究を行う研究機関と、水産資源を管理する行政や科学者が連携して段階的に行う「生態系アプローチ型管理」が、重要なカギとなります。
生物としての「サケ」を守れるか
これから先、サケの持続可能な保全管理のためには、人的資源の確保も重大な課題です。現場でサケと向き合ってきた漁協組合の人々は、すでに定年を超え、ほとんどボランティアとして漁を行なっています。当然そんな状況では若い人は集まらず、後継ぎもいない。足腰に鞭を打ちながら冷たい川に入る毎日に、現場の水産業者たちは「もうたまったもんじゃないですよ」と、「生業」としてのサケ漁存続の難しさを口にしました。
近い将来、国産のサケが、食卓に並ばない日がくるかもしれない。
お歳暮の定番である「新巻鮭」に象徴されるように、サケは大切な日本の文化でもあります。サケの不漁は、生態系の問題であると同時に、日本社会のカルチャーの問題でもあると言うべき事象ではないでしょうか。
日々の生活の中ではなかなか身近に感じられない環境問題ですが、水産資源を、野生の生物を守るためには、消費者である私たち一人ひとりが現状を知り、当事者としての意識を持つことが求められます。
今、世界中で注目を集めるSDGs(持続可能な開発目標)も、同様の目的を持って掲げられたものです。企業や個人が「このままではいけない」と考え、生物の保全に向けて協調しながら取り組めば、深刻な社会課題ですら解決が可能になることを、少しでも多くの人に知ってほしいと願います。
取材協力=魚津市食のモデル地域協議会
写真=山元茂樹/文藝春秋