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振り飛車党の鈴木大介九段が「藤井システムだけは使うまい」と決めていた理由

振り飛車党の鈴木大介九段が「藤井システムだけは使うまい」と決めていた理由

鈴木大介九段インタビュー #1

2020/02/21
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人生をやり直せるなら……

――石田流では(新しい戦法や妙手に対して贈られる)升田幸三賞を受賞して、新手メーカーの印象も強いです。

鈴木 自分の棋士人生の中では、けっこう新手を指してきたかと思います。新戦法を編み出すことのメリットは、仮に1年しかもたなくても、爆発力につながる、ということにあります。毎年勝率6割で、白星の挙げ方も同じだと挑戦者になれませんが、10連勝するような感じで爆発的に勝つことが大事ですから。石田流は恩恵がありました。

――いま話に出た藤井九段とは竜王戦のタイトル戦で対戦しましたね。振り飛車党同士のタイトル戦がほとんどありません。そのときの作戦とか思いはいかがでしたか。

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鈴木 待ったをしたいといいますか、人生をやり直せるなら、そこだけやり直したいですね。竜王挑戦が決まって浮かれたんですね。若かったのもあるんでしょうね。

 

――竜王挑戦は25歳のころですね。

鈴木 藤井さんとは研修会のときから一緒に戦ってきた仲です。いまは藤井さんの将棋をとてもリスペクトしていますけど、当時は絶対に自分のほうが強いし、負けるわけがないというつもりでした。気合が空回りして、研究せず挑んでしまったところがありました。

 対して、藤井さんは用意周到でした。自分は相振り飛車中心になると思ったんですが、「まず居飛車を連投して、それがだめだったら切り札で相振り飛車をやるつもりだった」と後日、本人からいわれた記憶があります。こちらが思ったよりも相手は作戦を練っていて、その差がもろに出ましたね。

たぶんリーグ戦向きなんですよね

――「負けて強くなる」などといわれますが、痛い敗戦の中で得るものはあったのでしょうか。

鈴木 んー、経験になりましたけど、どうですかね。自分の場合は、棋聖戦で2回目のタイトル挑戦をしたのが竜王戦から7年くらい後になったのが痛かったです。いい線までいけても、チャンスを逃したのは誤算でした。竜王戦で負けたときは、まだいくらでもチャンスがあると思ったんですけど甘かったですね。

――竜王戦は1組、順位戦もA級に上がりましたが、なかなか挑戦者になれなかったのはどのような原因があったと思いますか。

鈴木 たぶんリーグ戦向きなんですよね。順位戦は向いていたと思います。棋士になってからは、20代でA級入りをする目標もありました。トップで長く活躍したいと思っていましたから、だとしたら30代でA級になっても、なかなか10年以上トップを張り続けるのは大変です。27から28歳くらいでA級に上がらないと。それが一流棋士の証明だと思ったんですけど。実際はA級4年で至らなかったですが、かなり気合を入れてやっていましたね。いまは各棋戦で昇段する規定がありますが、当時は順位戦で昇級しないと段位がなかなか上がらなかったですから、そういう風潮も残っていました。

写真=今井知佑/文藝春秋

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