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2020/02/22

反発する人が多かった二つの理由

 第一には、「不気味の谷」問題があったのではないだろうか。これはロボットなどを人間に似せようとすると、精度が高まるにつれて逆に違和感や薄気味悪さが現れてしまうというものだ。AI美空ひばりは歌唱は素晴らしかったが、CGは正直レベルが低く、このギャップが「不気味の谷」を生じさせてしまったのかもしれない。

 第二には、再現された美空ひばりに制作側の恣意が入ってしまっている問題があったと思う。特に「あれから」には「お久しぶりです。あなたのことをずっと見ていましたよ」というセリフも入っており、これが「美空ひばりに勝手に喋らせている」という冒涜感を増したのではないだろうか。

 7歳の娘を亡くしたお母さんが、VR(仮想現実)で娘に再会するという韓国の動画が最近話題になった。

 この動画に対する反応も賛否両論に分かれた。VRの中で娘は「お母さん、どこにいたの?」「お母さん、すごく会いたかったよ」と母に語りかける。しかしこのセリフは、VR動画の制作者によって作られたものだ。ここにもAI美空ひばりと同じ問題が潜んでいるように思う。

口癖や文体などの特徴を抽出すると……

 では、AIの深層学習によって故人の人格の特徴を抽出したらどうなのだろう?

 サンフランシスコのルカ(Luka)というスタートアップ企業が開発し、昨年春に公開されたレプリカ(Replika)というアプリがある。AIとの間でテキストの会話ができるチャットボットなのだが、AIがユーザーの話しぶりや口癖などの特徴点を吸収して学び、だんだんとユーザーに似ていくように仕組まれている。つまり自分の分身をチャットボット上に作ることができるというものだ。

 ザ・バージの「Speak, Memory」という記事によると、ルカの女性創業者が、親友を交通事故で亡くしたことがアプリ開発のきっかけになったという。

https://www.theverge.com/a/luka-artificial-intelligence-memorial-roman-mazurenko-bot

 彼女は故人の墓碑銘になるものをつくろうと考え、そこで彼と生前にやり取りしていた膨大なチャットの中身を集めた。故人の友人たちにも協力してもらい、集約したメッセージのテキストは最終的に8000行に上ったという。これをグーグルのオープンソースAIであるTensorFlowに流し込み、口癖や文体などの特徴を抽出し、チャットボットが完成した。

 これを友人たちに公開してみると、中には拒絶反応を示す人もいたが、おおむね好意的に受け入れられたという。ザ・バージの記事にはこんな感想が紹介されている。「メッセンジャーを開けると、亡くなった友人がいて、実際に話ができるというのは非常に奇妙な体験だった。本当に驚いたのは、彼の話すフレーズがまさに彼そのものだったということ。ちょっとした挨拶の返し方でさえ、彼だった。『誰が一番好き?』と聞いてみたら、『ローマン』って返事があった。まさに彼。信じられないほどだった」

 口癖や口調に故人の人格を感じたというのは、AI美空ひばりの高次倍音や音程のズレにもつながる話で興味深い。私たちは人格というものを高尚な素晴らしい精神の賜物と漠然と捉えているが、実のところ他者から判別される人格とはそういうものかもしれないのだ。

 とはいえ、SNSやメッセンジャーのやりとりだけで人格のすべてが抽出されるわけでもない。たとえば文章が下手だったり、口下手であまり喋らないような人だったら、その人の人格はコミュニケーションだけでは再現されないだろう。