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沼袋で55年間続く“地味なラーメン屋” 寡黙な店主が作るチャーシューメンはやはり職人技だった!

B中華を探す旅――沼袋「宝来軒」

2020/02/25

genre : ライフ, グルメ

note

55年間ずっとこの場所で

 とはいえ焼いている間、ご主人は何度も蓋を開けて焼き加減をチェックしている。いかにも、仕事には決して手を抜かない職人という感じだ。

 いったい、どんな人なのだろう? 声をかけてみることにした。

「ここはいつからあるんですか」
「できて55年」
「ずっとこの場所なんですか?」
「そうです」

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 ……だめだ、歯が立たない。悪意があるわけではなく、単に静かな人なのだろう。それは間違いない。しかし、だからこそ、間がもたない。「はるよし&友子」の、黙っていてもマシンガントークをしてくるはるよしさんとは対照的な性格である。

 ただ、そのぶん娘さんは社交的で、質問を投げかけると過不足のない答えが返ってくる。ご主人へ質問する私、あまり喋らないご主人、代わりに通訳的な役回りを担当する娘さんと、不思議な関係性がそこに生まれる。

 

 もっとも“過不足のない”ぶん、すぐに会話が終わってしまうのだが。

 ちなみに娘さんは、ご主人の息子さんの奥さんだそう。この家に嫁いだというわけだ。

85歳になった今も毎日厨房に立っている

 聞けば、ご主人の渡辺秀明さんは85歳。出身は山梨の甲府で、上京してからは王子の中華料理店で修業を積み、その後にこの店を開いたのだという。

「王子か。そのお店はまだあるんですか?」
「やってます」
「なんというお店ですか?」
「『かいらく』」
「ああ、聞いたことあります。で、どうしてこの場所で開業したんですか?」

 

 ここで娘さんがまた仲介に入る。

「なんでこの場所にしたかって。偶然?」
「うん、偶然」
「(笑)こだわりなく、みたいです」

 定休日は日曜日のみ。85歳で毎日厨房に立たれているとは驚きだが、いまはもう夜は営業しておらず、午後3時には店を閉めるのだそうだ。ちなみにこの日は奥で休まれていたが、普段は夫婦で切り盛りされているらしい。