餃子はカリッと香ばしい!
年上で93歳だという奥様とは、「かいらく」で知り合ったのだとか。お会いできなくて残念だが、まぁ仕方があるまい。
さて、そうこうしているうちに餃子が焼けた。まめにチェックされていただけあって、きれいな焼き上がりだ。皮はカリッと香ばしく、あんの詰まり具合もいい。にんにくも入っているが気になるほどではなく、いいアクセントになっている。
思わず2本目のビールを頼みそうになってしまったが、そこはぐっとこらえて、チャーシューメンを注文することにする。
それにしても、ずっと気になっていたことがあった。カウンターの上段、ご主人の手の届く位置に、銀色の大きなボウルが置かれていたのだ。その片方に入っているものは、視覚的になかなかのインパクトがある。
「あの、これはなんですか?」
「ラード」
「こっちは?」
「塩」
そう、ねっとりとしたラードが盛られたボウルだったのである。調理のたびにそこから適量をすくうのだが、ばっちり客の視界に収まっているだけに、なかなかどうして生々しい。
ただ作業風景を眺めていると、そこが理想的な位置であるようだ。慣れた手つきでおたまを扱い、適量のラードをひょいとすくい上げる仕草には無駄がない。
“職人”の自信を感じるチャーシューメン
「はい、チャーシューメン」
ほどなく娘さんが運んできてくださったチャーシューメンは、いい意味でシンプル。具材は5枚のチャーシューとメンマ、ねぎだけで、余計なものは一切入っていないのだ。
スープをひとくち飲んでみると、バランスよく上品なうまみが口のなかに広がる。角が立っておらずすっきりとしていて、品のいい味だ。
「これ、スープはなにで出してるんですか?」
「とんこつとね、あとね、削り節。昔っからずっと同じ。なに入れてるかってよく聞かれるけど、それだけ」
印象的だったのは、このときだけご主人が積極的に話したこと。いや、これでも話したほうなのだ。つまり基本的にはそれほど寡黙なのだが、「昔からずっと同じ」「それだけ」というところに、無駄なことばでは語り尽くせない自信を感じた。
やはりこの人は、職人気質なのだろう。