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沼袋で55年間続く“地味なラーメン屋” 寡黙な店主が作るチャーシューメンはやはり職人技だった!

B中華を探す旅――沼袋「宝来軒」

2020/02/25

genre : ライフ, グルメ

note

餃子はカリッと香ばしい!

 年上で93歳だという奥様とは、「かいらく」で知り合ったのだとか。お会いできなくて残念だが、まぁ仕方があるまい。

 さて、そうこうしているうちに餃子が焼けた。まめにチェックされていただけあって、きれいな焼き上がりだ。皮はカリッと香ばしく、あんの詰まり具合もいい。にんにくも入っているが気になるほどではなく、いいアクセントになっている。

 

 思わず2本目のビールを頼みそうになってしまったが、そこはぐっとこらえて、チャーシューメンを注文することにする。

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 それにしても、ずっと気になっていたことがあった。カウンターの上段、ご主人の手の届く位置に、銀色の大きなボウルが置かれていたのだ。その片方に入っているものは、視覚的になかなかのインパクトがある。

「あの、これはなんですか?」
「ラード」
「こっちは?」
「塩」

 

 そう、ねっとりとしたラードが盛られたボウルだったのである。調理のたびにそこから適量をすくうのだが、ばっちり客の視界に収まっているだけに、なかなかどうして生々しい。

 ただ作業風景を眺めていると、そこが理想的な位置であるようだ。慣れた手つきでおたまを扱い、適量のラードをひょいとすくい上げる仕草には無駄がない。

“職人”の自信を感じるチャーシューメン

「はい、チャーシューメン」

 ほどなく娘さんが運んできてくださったチャーシューメンは、いい意味でシンプル。具材は5枚のチャーシューとメンマ、ねぎだけで、余計なものは一切入っていないのだ。

 

 スープをひとくち飲んでみると、バランスよく上品なうまみが口のなかに広がる。角が立っておらずすっきりとしていて、品のいい味だ。

「これ、スープはなにで出してるんですか?」
「とんこつとね、あとね、削り節。昔っからずっと同じ。なに入れてるかってよく聞かれるけど、それだけ」

 

 印象的だったのは、このときだけご主人が積極的に話したこと。いや、これでも話したほうなのだ。つまり基本的にはそれほど寡黙なのだが、「昔からずっと同じ」「それだけ」というところに、無駄なことばでは語り尽くせない自信を感じた。

 やはりこの人は、職人気質なのだろう。