突然発覚した8000万円の連帯保証
けれど、勇吉が亡くなって3カ月ほど過ぎたある日、この気持ちに水を差すような事件が降って湧いたように起こったのです。
ある日、勇吉の長男の哲夫(48歳)宛に、○○銀行から内容証明付きの郵便物が届きました。開封してみると、そこには、勇吉が8000万円の連帯保証人であるので、それを遺族で支払って欲しいと書かれていました。
それは、窮地に追い込まれていた知人の工場を立て直すために、頼まれた勇吉が行った連帯保証でした。
ところが、その工場がピンチを脱しきれずに倒産。勇吉が負った8000万円の連帯保証だけが残りました。
故人の債務は遺族にマイナスの資産として引き継がれます。ですから、銀行からの通知は、これを払って欲しいという内容だったのです。
土地建物を売却しても7000万円にしかならない
母親は早くに亡くなっていたので、勇吉の遺産を相続したのは3人の息子です。相続財産は自宅兼工場の100坪ほどの土地建物で、立地があまり良くないため、売却しても7000万円くらいだと不動産業者には言われていました。
8000万円の連帯保証に対して、7000万円の財産しかなければ、相続した財産をすべて返済にあてても1000万円足りません。
そこで兄弟は相談して「マイナスになるくらいなら、相続放棄をしよう」ということになりました。
相続放棄が出来ない――その理由は
ところが、兄弟は知らなかったのですが、相続放棄は相続を知ってから3カ月以内に行わなくてはなりません。もし、放棄しないまま相続し、債務を返済しないと年5~14・6%という馬鹿高い延滞料がかかり、金額がゆきだるま式に増えていくのです。
「なぜ、もっと早く知らせてくれなかったんだ」
長男の哲夫は憤(いきどお)りましたが、後の祭りです。
急いで経理を見てくれていた税理士に電話し、事の顛末を話しました。税理士も、勇吉の連帯保証の話は知らなかったようでした。
「とりあえず、通夜に来た人の中に、○○銀行の関係者がいないか見てください」
と税理士に言われて、芳名帳を見返すと、確かに内容証明を送ってきた銀行の支店長が焼香に来ていました。