「恨みがあっても逃げれらない!」高齢の「毒親」に介護が必要になったとき、かつて虐待を受けた子どもはどうすればいいのか? 毒親との関係に悩む人たちの生々しい声を紹介し、その実態や心の内に迫った『毒親介護』が発売されました。「おしん」のようだった母が老いた父を虐待するようになった“ケース4”をお届けします。

半身マヒになった父の介護におわれる毎日

 東京郊外で工務店を経営する渡辺啓治さん(48歳)は、実家から徒歩10分の自宅に妻と2人の子どもと暮らす。工務店の事務所を兼ねた実家には要介護一の母(80歳)がいて毎日のように顔を合わせるが、もともと啓治さんはここで父(90歳)を介護していた。

 先代の父は腕の立つ職人だったが、家庭内では暴力的な人だった。「しつけ」と称して子どもを殴る蹴る、とりわけ母には厳しく「おしん」のようにこき使うこともあった。

 そんな父は2001年、脳出血の後遺症で半身マヒになる。当時は介護保険に関する情報が乏しく、なにより「介護は家族の役目」といった風潮が強かったため、啓治さんは母とともに、また妻の協力も得ながら在宅介護をつづけた。

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 多忙な仕事を抱えながら1日置きに実家に泊まり込み、入浴や着替えの介助、深夜に何度ものトイレ誘導をすればほとんど眠れない。心身ともに疲弊した啓治さんは、実家を離れていた兄と姉に助けを求める。

 2人は父の前妻の子どもで、啓治さんにとっては母親違いのきょうだいだ。過去の家族関係が複雑だったこともあるのか、必死に窮状を訴えてもまったく通じない。助けてくれるどころか、「親父の財産を独り占めにするつもりだろう」などと口汚く罵られる始末だ。

 結局はそれまでどおりの介護をつづけざるを得なかったが、5年が過ぎたころ、妻から思わぬ話を聞かされた。父を介護する母の様子が危ない、というのだ。(#1「要介護状態になった「毒親」を捨てたい──50歳の息子の葛藤」 #2「気力、体力、財力が充実した『ハイブリッド老婆』に苦しめられる長女」 #3「うつ、パニック障害を抱え、老親の年金で暮らす独身姉妹の絶望」より続く)

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母親が父親を巧妙に父をいじめていた

 啓治さんは気づかなかったが、妻は女性ならではの目線で細かい異変に気づいていた。母の危うさ、それは巧妙に父をいじめていることだった。

 たとえばパンツをはかせようとする際、太ももや臀部に爪を立てたり、思いきりつねったりする。ご飯やおかずに殺虫剤をかけ、喉の奥にスプーンを突っ込み、手の甲にはフォークを突き立てたりしていた。

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「これはマズイぞ、そう思いましたけど、実はざまあみろという気持ちもあった。僕もおふくろも昔は親父に散々ひどい目に遭わされてきたわけだし、それくらいの復讐は仕方ないだろうと。ただ、女房はこれ以上何かあったら怖いという。5年間、家族だけでがんばってきたんだし、もうこのあたりで他人に介護を頼もうということになったんです」

 2006年、父の介護申請をしたところ要介護2と認定された(のちに要介護4に変更)。母が「他人に家の中に入られるのは嫌だ」と言ったため訪問介護は頼まなかったが、週に3日のデイサービスの利用がはじまった。