「銀行全体を相手に訴訟を起こします」
3人の兄弟は事態がいかに深刻なことになっているのかを理解しました。
税理士が続けます。
「相続放棄はできそうもないので、とりあえず、債務の減額をしてもらえないかを銀行と話し合ってはどうでしょうか。
もし、お父様の連帯保証の話を知っていて相続放棄をしたとしたら、7000万円の相続も放棄せざるを得なかったわけですから、とりあえず父親からもらった7000万円は銀行に返済し、残りの1000万円についてどれだけ減額してもらえるのかという観点から交渉するのがいいでしょう」
3人は銀行の支店長を訪ね、税理士のアドバイス通りにかけ合いました。
最初は支店長も渋い顔をしていましたが、長男の哲夫が、
「だったら、このままではだまし討ちにあったようで気持ちが収まらないので、弁護士を立てて裁判をしましょう。銀行全体を相手に訴訟を起こします」
と迫ったのを機に、支店長の顔色がサッと変わりました。
そして、打って変わった柔らかな口調で、
「裁判になると話が複雑になるだけで、お互いにとってメリットは少ない。残りの1000万円については、申し訳ありませんが1人200万円ずつ負担していただき、私どもで400万円はかぶるということで、ご了承いただけませんか」
こんな提案をしてきました。
支店長としては、裁判沙汰にされて本社の人事の耳に入り、自分の銀行での出世にケチがついたり、スムーズに債権回収ができなくて債権回収会社に債権を安く売ったりするよりも、債権そのものを7600万円にディスカウントして、それをスムーズに回収するほうがいいと計算したのでしょう。
そして最終的には、この支店長の提案で3人も妥協しました。