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兄弟3人がお通夜に出席しているかを確認にきていた支店長

 そのことを聞いた税理士は、こう説明しました。

「これは、計画的ですね。民法915条1項では、『相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない』となっています。

 つまり、自分が相続人になったことを知ってから3カ月以内に相続放棄をしなくてはダメだということ。ですから、支店長は、相続をするあなたたち兄弟3人が、みんな出席しているかどうかを通夜の時に確かめに来たのでしょう。相続人がみな通夜の席にいたら、後から、『父親が死んだことは知らなかった』などと言い逃れはできない。

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 それを確認しておいて、3カ月経ってから連帯保証の話を切り出せば、もはや相続を放棄することはできなくなりますから」

 その言葉に、3人の兄弟は唖然としました。

「父の工場とあの銀行とは長い付き合いなので、故人を偲んで線香をあげに来てくれたのかと思っていたのに。なんで、その時に言ってくれなかったんだ!」

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 哲夫が言うと、税理士が続けます。

「銀行としても相続を放棄されたら、8000万円の債務は取りっぱぐれになってしまうので、口が裂けてもそんなことは言わない。

 通夜に来て、相続する家族が揃っているかどうかを確認すると同時に、『御愁傷様でした』と言葉を交わしながら、それとなく家族が連帯保証のことを知っているかどうかについても探りを入れていたと思いますよ。そして、もしその場でそうした話が出なければ、家族はそれを知らない可能性が高い。

 だから、ひたすら3カ月経つのを待っていたんじゃないですか」

「連帯保証をしているかどうか」は家族でもわからない

 本人が連帯保証をしているかどうかは、家族でもわかりにくい面があります。

 住宅ローンのように双方に契約書がある場合には、それによってローンを組んでいることがわかります。また、毎月の返済が滞ると督促状もきますから、そこからお金を借りていることもわかります。

 けれど、連帯保証をしているケースでは、「金銭消費貸借契約書」に貸主である銀行と借主、連帯保証人の三者がそれぞれ署名押印するものの、銀行がその契約書を借主と連帯保証人に渡さない、しかもコピーもくれないといった問題が数年前までは当たり前のようにありました。ですから、連帯保証をした人が家族に「俺は連帯保証人になっている」と言っていない限りわかりません。

 商売をやっている方は、たいていは家族にいちいち誰の連帯保証をしているなどとは言いません。特に、勇吉は仲間からの信望が厚い人物だったようですから、いろいろな人に頼りにされ、債務も膨らんでいたのでしょう。