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平均最低気温-16度、人間よりホッキョクグマが多い地で「世界最北の寿司」を食べてみた

2020/03/13
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 ノルウェーは外食費が異様に高いが、『NUGA』のメニューはかなり良心的な価格帯だ。写真のサクラセットは2,780円。海外でよくあるインチキ寿司ではなく、日本人が食べて満足できる寿司である。日本にサーモンを寿司ネタとして普及させたノルウェーだけあって、本場のノルウェーサーモンは間違いなく旨い。優しい味がじゅわっと染みこんだ油揚げに包まれたいなり寿司も良い。巻き物は海苔が内側に巻かれたカリフォルニア・ロール風だが、これはこれでイケる。

『NUGA』のサクラセット2,780円。

日本人大将のもとで修行したオーナーの素顔は?

 北極で寿司屋を切り盛りするのは、エストニア人のステン・エリック・アリカスさん。1998年からの3年間、エストニアの寿司屋で日本人大将のもと修業をして寿司職人になったそうだ。その後世界中で様々な料理を研究し、ロンドンの有名レストラン『The Ivy』を経て、レストランのコンサルティングを務めることになった。ロングイェールビーンのレストランで働く友人に誘われたことがきっかけとなり2017年に移住、2018年に『NUGA』を開業した。

北極の寿司職人、ステン・エリック・アリカスさん。

 8歳年下の妹は京都で5年間日本語の勉強をし、現在はエストニアで日本企業の通訳をしているそうだ。兄妹そろって日本にインスパイアされたというのも興味深い。

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 店名の『NUGA』はエストニア語で包丁を意味する。アリカスさんが使用している柳刃包丁は関孫六のもの。店名に込められた寿司職人の信念を感じる。

アリカスさんが愛用している関孫六の柳刃包丁。

 エストニアからイギリス、スペイン、シンガポール、カンボジア、オーストラリア、と世界中を移り住んだアリカスさんが選んだスヴァールバル諸島の魅力は何だろう?

「ここは静かで、自分自身を見つめ直すことのできる場所なんです」

 極夜の暗闇に風の音だけが響き渡るこの地は人が生きるにはあまりにも過酷だ。アリカスさんが言うように、厳しい自然の中に身を置くことで本来の自分に立ち返る『禅』に似た体験が得られるのかもしれない。