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「世の中をよくしたいわけじゃなかった」気鋭のAI研究者が語る“ドラえもん開発”の夢

『ドラえもんを本気でつくる』より #1

2020/03/21
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ドラえもんづくりのプロセスそのものを幸せにつなげる

 ドラえもんができたあとの社会において効果的な方法論は、人を幸せにした結果として世の中がよくなる、「ボトムアップ式」といえると思います。ドラえもんとともに人類が1人ひとりを幸せにしていき、幸せになった人びとが自然によりよい世の中をつくれるようになっていく、という考え方です。

 ただし、「いつか」ドラえもんができたときに多くの人が幸せになる、というのでは遅いと思っています。ドラえもんをつくる営みのなかで、人を幸せにすることを実現していきたいのです。たくさんの人にドラえもんづくりにかかわってもらい、ドラえもんづくりのプロセス自体が多くの人の幸せにつながるようにしたいと考えています。

©iStock.com

約30年前からシンギュラリティを描いていたドラえもん

 私は1993年生まれですが、この年に映画「ドラえもん のび太とブリキの迷宮」が公開されました。92~93年の『月刊コロコロコミック』に掲載された作品が映画化されたのです。

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 この映画では、技術開発がどんどん進んでいき、さまざまな発明のおかげで非常に楽な生活ができるようになった社会が描かれています。発明が進み、発明をするロボットまで発明すると、人間は発明をすることすらしなくなって、放っておいてもどんどん生活が楽になる世の中になりました。

 ところが、大きな問題が起こりました。発明したロボットが人間に対して反逆を起こし、人間を支配しはじめたのです。

 偶然、その世界に迷い込んだのが、のび太とドラえもんです。その後、彼らがどんな活躍をするかはぜひ映画を見ていただきたいのですが、30年近く前に、現在とほぼ同じような状況が繰り広げられていることに驚きます。2020年のいま、AIの知性が人間を超える「シンギュラリティ」(技術的特異点)というものが議論されています。この言葉とともに、とくに頻繁に想像される未来が、「AIが人間を支配するのではないか」ということです。