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「世の中をよくしたいわけじゃなかった」気鋭のAI研究者が語る“ドラえもん開発”の夢

『ドラえもんを本気でつくる』より #1

2020/03/21
note

ドラえもんで人を幸せにするイノベーションを起こす

 私は、「目の前で困っている人を助けたい」という気持ちは強いのですが、「世の中全体をよくしたい」という欲求はほとんどありませんでした。それが、私自身のコンプレックスでもありました。

 ときどき、こんなふうに言われます。

「目の前の人を助けることばかりにとらわれていると、世界を大きく変えることはできない。目の前の人を助けたいという気持ちがあるんだったら、目の前の人にとらわれるのをやめて、もっと世界全体を見て、世界をよくすることを考えろ」と。

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 私は、「目の前の困っている人を放っておくくらいなら、自分が世界を変えなくてもいい」と思っていました。

©iStock.com

 もちろん、社会全体をよくするべきだという考え方は理解できます。理解できるからこそ、自分にとってのコンプレックスだったのです。

 目の前の人と向き合い、目の前の人を助けることを一生懸命にやっても、社会全体をよくすることはできないのではないかと言われると、もどかしさを感じずにはいられませんでした。

 私は、ドラえもんがその解決策になると考えています。

 ドラえもんは、のび太にとことん向き合って、のび太という1人だけを幸せにするロボットです。たった1人しか幸せにできませんが、ロボットですから、たくさんつくることができます。ドラえもんというロボットができれば、目の前の人にとことん向き合い、目の前の人を助けるということがスケールしはじめると思うのです。

 これは、人を幸せにする方法にイノベーションを起こすはずです。

 資本主義経済である現代社会において効果的な方法論は、世の中をよくした結果として人を幸せにする、「トップダウン式」といえると思います。世の中の仕組みを変えた結果、多くの人が幸せになるという考え方です。

 ただ、これは、平均を見れば幸せになっているかもしれませんが、一部には世の中の仕組みが変わって不幸になる人がいることに、どうしても私はもどかしさを感じます。