国立大学医学部のGさんはこう語る。
「中学生のときは優しくてユニークな先生に人気が集まりました。でも、高校生になると先生への見方、その評価の尺度が一変します。つまり、授業内容で人気不人気が決まるようになるのです。中学生のときに人気のあった先生でも、授業自体に刺激がなければ生徒はやがて離れていきます。逆に、中学生の頃には疎まれていた先生であっても、その先生から確かな教養を感じることができれば、わたしたちは付いていきます」
実に桜蔭生らしいコメントではないか。これは教員の側も緊張感を強いられる。1回1回の授業に全力を尽くさねばならない。
大人顔負けの「卒業論文」
そして、桜蔭は「書く」という作業を中高生活の中で徹底させる学校としても有名だ。実際に桜蔭の入試問題は、これでもかというくらいに記述問題が数多く盛り込まれている。
桜蔭の中高生活の中で「書かせる」という点で最たるものは、中3の「自由研究」だろう。原稿用紙で30~40枚、手書き指定で論文を仕上げるのだ。以前はパソコン使用可としていたらしいが、手書きに限定したのは安易なコピペ(コピー&ペースト)を防ぐためらしい。
自由研究の近年のテーマ一覧を見ると、なかなか面白そうで、かつ手強そうなタイトルが並んでいる。たとえば、「近代兵器の変遷とその背景」「暗号~単換字式から量子暗号まで~」「死後の世界」「空間情報科学」「犯罪者プロファイリング」「多重人格障害とは?」「潜在的左利き~転向の是非~」「癒しについて」……などなど。中には、「イケメンとは何か」「プロ野球をクビになった男たち」「菊はなぜ葬式の花なのか」「太る生活痩せる生活」なんていう一見すると風変わりなタイトルも。
担任はひとつひとつにコメントを付ける
校長を務める齊藤由紀子先生が、自由研究の準備について説明してくれた。
「30~40枚ではまとめられないテーマは無理なので、担任が何回も面接をして決めるのです。わたしたちが内容に干渉することはありませんが、たとえば『あなたのやりたいテーマの資料はどうやって探すの?』『このテーマなら、こういうふうにして論文としてまとめていこう』というように声をかけています」
この中3の自由研究は、毎年冊子にまとめられている。表紙の装丁も生徒たちが工夫をしてつくっているという。この冊子は後輩が目にしたり、保護者が見たりする。また、手書きの原本は全部並べて、全校生徒がそれらを手に取る機会を設けている。担任はそれらにひとつひとつコメントを付けて返却するらしい。
わたしも論文の数々を読ませてもらったが、大人顔負けの文章揃いであり唸らされた。