――就任時に「硬派なニュース、もっと読もう!」というテーマを掲げていた。しかし経済とかけ離れた軟派な記事が多すぎるとの声も社内からは聞かれます。
「お恥ずかしい話なんですが、『金持ちになるためにはどうすればいいか』というライフ・マネー系のネタがたくさん読まれているので、拡充傾向にあります。そういった領域も手は抜かないということです」
――社内には、下ネタ記事が連発されることに対する嫌悪感もあるようです。
「うーん、そんなことはないです。ネットで読まれるものは爆発的にPVがつくので、目立つかもしれません。たしかに従来の東洋経済が扱わないテーマの記事も扱っている。ただそれほど本数が多いわけではないと思います。エログロ的なもの、不倫ネタは極力やらないようにしています」
――経済記事はなかなか読まれないのでしょうか。
「本当に悩ましく感じています。社内記者が書くのはビジネス系記事。そうした記事が読まれるかどうかが東洋経済らしさに繋がるのはよく理解しています。通勤時間帯にビジネス系記事を配信するなど、数多く読んでもらえるように物凄く神経を割いています」
――「さっぱり貯金できない人は『節約』が足りない」など記事の質に疑問がつく記事もあります。
「修正は、きちんと足跡を残しながら直すようにしています。黙って消すことはしない。しっかり疑義のない形でやろうとしている」
最後に山田編集長はこう力説した。
「私は『量は質に転化する』という言葉を信じています。多くの人の目に晒されていれば、常に見直すチャンスがうまれる。いろんな指摘を真摯に受け止めたい。『東洋経済とは何か』というのは僕自身いつも深く考えています。かつて『週刊東洋経済』が健康特集を作って、『石橋湛山が泣いている』などと散々叩かれた。だから、なるべく『週刊東洋経済』は本道に戻って東洋経済らしさを守ってもらって、日本のリーダーとなるような人が読むプレミアムな雑誌を目指してもらいたい。大衆的な部分を『東洋経済オンライン』が引き継げばいいと考えています」
メディア論に詳しい立教大学名誉教授の服部孝章氏はこう語る。
「ネットメディアは、雑誌やテレビより数字がクリアに見え、そのぶん経済効率を優先したくなる魔力が働きやすいのです。ただ、この魔力はメディア自体を壊す危険性がある。PVや利益だけを追い続けると、言論機関としての取材力や信用を失いかねないからです」
こうした状況は、本誌を含むすべてのメディアにとって他人事ではないのだ。