昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

特集新入社員へのメッセージ

自分の仕事が大嫌いになったとき、私が行った「密かな反逆」

「新入社員へのメッセージ」として

2020/04/09

 会社員2年目のある日。突然、自分のやっている仕事が大嫌いになりました。

 大学卒業後、新卒で入った会社は超が付くほどのブラック企業で5ヵ月で退職。転職が決まって「ようやく腰を据えてまともな社会人生活が過ごせる」と思っていた矢先のことでした。

生活に困窮する人たちをサポートする仕事のはずが……

 当時、私は司法書士事務所で借金返済の相談受付や、依頼者の負担を軽減するために代理人として消費者金融、カード会社、銀行と交渉をするなど、いわゆる「債務整理」の仕事を担当していました。

 相談者は生活に困窮していて、キャッシングやクレジットカードの返済が家計を圧迫していたり滞ったりで、精神的に追い詰められていることがほとんどです。これまで問題なく返済ができていた人であっても病気や解雇、家庭の事情などで収入が激減し、首が回らなくなってしまうケースを幾度となく見てきました。

 法学部出身の私は、自分が学んでいた学問や知識を使って人を手助けする仕事に憧れ、この会社に入社しました。相談者にとって無理のない返済計画を一緒に立て、再び彼ら、彼女らの生活を建て直す協力ができることは、私にとって非常にやりがいがあるものだったのです。

「今日からお前ら、全員営業ね」

 そんな私が仕事を嫌いになったのは、会社の経営危機による方針転換がきっかけでした。

©iStock.com

「各部署の担当業務を停止して、全員が電話営業で新規顧客の数を増やすことだけ考えろ」です。

 そんなことをすれば、すでに依頼をしてくれている人たちの和解交渉は進みません。代理人費用はきっちり払っているのに、代理人が仕事をせずいつまでも待たされる依頼者たちが数千人にものぼったのです。

 当然、まだかまだかと解決を待ち望んでいた依頼者たちからのクレームが殺到しました。上からの指示で「和解交渉に時間がかかっているので……」と嘘をつくのをくり返すうち、罪悪感は日に日に募っていきます。社員のほとんどはそんな状況に慣れてしまったらしく、はじめは事務所のやり方を非難していた人たちですら、1ヵ月もしないうちに新しい相談者のことを、ボーナスの査定に影響する「契約件数」としか見ないようになりました。

 彼らは、彼女らは、藁をも掴む思いで私たちに助けを求めているのに。