将来を嘱望されるレスリング選手の兄と、その影に隠れがちな優等生の妹。息子に厳しすぎる父と、それを危惧する継母。エイミー・ワインハウスやフランク・オーシャン、グレン・ミラーらの名曲が途切れなく流れる『WAVES/ウェイブス』 (※7月10日(金)公開。詳しくは公式サイトにて) は、一見するとポップなミュージカルのようだが、その実、青春の痛みや、家族の崩壊、そして再生を鮮烈に描いている。監督、脚本は31歳の俊英トレイ・エドワード・シュルツ。自身も学生時代はレスリング選手であり、自伝的要素の強い作品だ。

「脚本は随分前に書き始めていたんだけど、何度書き直してもまとまらなかった。でも前作の『イット・カムズ・アット・ナイト』を撮ったら、自分が描きたいことがはっきりしてきた。生きることを描きたいんだ、ってね。この映画は僕にとって、とても意味のあるもの。まるで自分の子供のように感じているよ」

トレイ・エドワード・シュルツ監督 ©Michael Loccisano

 前半は父からのプレッシャーに苦しむ兄タイラーの視点で、後半は兄の起こした事件によって傷ついた高校生の妹エミリーの視点で進む。

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「エミリーの恋人が、死にそうな父親に会うためミズーリまで行くけれど、あれは僕自身が経験したことなんだ。そしてタイラーの話には、僕と継父との関係が投影されている。前作も僕と父との関係がベースになっているけれど、今回は父が死んでから数年経ったことで、より俯瞰して僕らの関係を捉えられるようになったんだ」

 波を意味するタイトルは抽象的だが、さまざまな意味を込めたという。

「感情の波という意味もあるし、人生の波でもある。音楽が波のように寄せては返すし、実際に海に浮かぶシーンや、映画の中で何か重大なことが起きるときには、水が関係してもいる。僕の地元フロリダで撮ったんだけど、ここは海がとても身近。ある意味、僕は海に取り憑かれているんだ」

 兄だけでなく、10代の少女であるエミリーの感情の変化が、とても繊細かつリアルに綴られていることに驚いた。

「僕の家族は少し複雑で、一緒に暮らしたことのない腹違いの妹や、義理の姉がいるんだ。彼女たちの影響も少しはあると思うけれど、エミリーの人物像は僕の恋人にかなり影響を受けている。彼女には脚本の下書き段階から読んでもらい、いろいろ意見を聞き、エミリーという人物を作り上げていったから。撮影が始まってからも、エミリー役のテイラー(・ラッセル)にどう思うか聞いて、できるだけ自然にするようにしたしね。それは兄役に関しても同じで、いつも僕は俳優たちにオープンに意見を聞くことにしている。僕自身が反映されてはいるけれど、そこにあまりとらわれてほしくないし、もっと普遍的なキャラクターにしたいと思っているから」

 映画には31もの名曲が流れ、その歌詞がキャラクターの気持ちを反映しているシーンも多い。撮影前に選曲は済ませていたのだろうか。

「ほとんど事前に決めていた。フランク・オーシャンやカニエ・ウェストなどは脚本を書いている時に聞いていた曲で、それをそのまま使ったりしている。僕や恋人の好きな曲や、主人公が好きそうな曲を選んだんだ。いくつかは撮影後に変更したけれども」

 シュルツは、名匠テレンス・マリックのインターンとして映画界でのキャリアを開始。マリックがカンヌ映画祭最高賞を受賞した『ツリー・オブ・ライフ』(’11)も親子関係を壮大なスケールで描いていたが、この作品を彷彿とさせるものがある。

「人生で最高に好きな映画の1本なんだ。何度も繰り返し見ているので、もう体の一部になっているんだと思う。テレンスは本当に素晴らしい監督だし、愛しているよ。彼と仕事が出来たことは一生の財産だと思う」

Trey Edward Shults/1988年テキサス生まれ。アルコール中毒を題材にした長編第1作『クリシャ』(’15)がカンヌ映画祭などで注目を浴びる。『イット・カムズ・アット・ナイト』(’17)では親子愛をホラーで描いた。

INFORMATION

映画『WAVES/ウェイブス』
(※7月10日(金)公開。詳しくは公式サイトにて)
https://www.phantom-film.com/waves-movie/