世界には一見不可解な「習俗」が数多く残っている。旅人に自身の妻を差し出したり、神殿で巫女が売春していたり、死者や植物と結婚することが当たり前であったり……。

 インターネットが全世界に広がり、世界は格段に狭くなっているにもかかわらず、それらの奇習はなぜ今も存在し続けるのだろう。その謎に迫ろうと、各地の性習俗について調べ上げた一冊が『世界の性習俗』(角川新書)だ。

 ここでは、中国雲南省の標高約2700メートルに位置する湖周辺に住まうモソ族の文化について紹介する。世界最後の母系社会として知られるモソ族は、一体どのような性習俗のもと暮らしているのだろう。

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「恋人は二百人いるよ」

※写真はイメージです ©iStock.com

 中国南部の雲南省は、「少数民族の宝庫」と呼ばれています。現地を歩いていると、色とりどりの民族衣装を着た少数民族が町を闊歩している姿をよく見かけます。

 ここにモソ族という民族が暮らしていますが、彼らは「結婚のない民族」として知られています。

 モソ族の性愛生活を、中国語で「走婚」と言います。「走」は中国語で「歩く」という意味です。「婚」という字が使われていますが、これは私たちの知っている「結婚」ではありません。一言でいうと、完全な自由恋愛です(モソ語でセセと言う)。より直截に言えば、「夜這い」ということです。

 モソ族の男は、気に入った女を見つけると、夜中に人知れず女の家に忍び寄ります。女は「花楼」と呼ばれる特別な部屋で寝ているのですが、そこで関係を持つのです。

 夜が明けると、男はまた人に見つからないようにして帰っていきます。セセが盛んなあまり、夜になっても自分の家で巣食っているような男は、腰抜けと言われて馬鹿にされるような世界です。

 モソ族には、「恋人が二百人いる」と豪語する男女も珍しくありません。むしろ、多くの異性を虜にする者が尊敬されるのです。

モソ族に「嫉妬」という言葉はない

 では、自由な性愛の結果、女に子供が生まれるとどうなるのでしょうか。

 モソ族は女系制社会なので、そのまま子供は女の家で育てられます。男はほとんど関係のない世界で、男が育児に携わることはありません。それどころか、自分の父親が誰か知らない子供も多いのです。別に知ったところで、大したメリットはないからです。

 男女が別れる時も簡単です。男は女のところに行くことをやめ、女は男を家に入れなければいいのです。だから離婚を巡る訴訟も、慰謝料の支払いもないし、養育費でもめることもない。嫁と姑のいざこざもない、日本の女性から見たら夢のような世界でしょう。