もはや正常な判断能力がどこかに吹っ飛んでしまったのかもしれない、この内閣は。首相のマスク姿を目にしたとき、多くの人間は笑うより先に、ギョッとなったはずだ。

 ついに壊れたか、安倍晋三。布製マスクをした自分が、国民の目にどう映るかまで予測できないとは。

 あのマスクを進言したのは、灘高から東大法学部、経産省というエリートコースを歩んだ首相秘書官と知って呆れた。

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 こんなポンコツの取り巻きしかいないから、都知事がこの一週間以上、まるで自分が首相のようにメディアで振るまっている。

©文藝春秋

 そんなある夜。NHKの「ニュースウオッチ9」を観ていると、首相の経済対策を説明している途中で、「あ、ただいま都知事の会見がおこなわれていますので、そちらを」と画面が都庁の会見場に移った。

 知事の発言が終わり、記者の質問が始まった。

 最初の質問者が「ニコニコ動画の○○です」と名乗った。おお。三人目の記者が「日刊ゲンダイの今泉です」といったときは驚いた。日刊ゲンダイの記者が、首相も恐れる女帝に挑むシーンを、NHKの生中継で見られるとはね。

 今泉記者は、訥々(とつとつ)と質問する。厚労省のクラスター対策班は三連休中の三月二十一日に、感染者の増大予測を都に伝えたのに、すぐには公表せず三月二十三日になったのはなぜか。

 三月二十三日といえば、安倍首相がオリンピックの延期を容認した直後だ。さらに二十五日に、都知事はロックダウンに言及した。

「厚労省から感染者が増えるという情報が入っていたなら、なぜ今夜のように緊急会見を開いて知らせなかったのか教えてください」

 よくぞ、いった。さすがの都知事も感染者増大の情報をなぜ公表しなかったかと訊かれ、顔が強張る。

「クラスター班の皆様、熱心に予測なさいますが、最初一万七千といったら、次は三千、翌日は三百と数字が揺れているところもございましたので」だって。

「オリンピックとの関係で御紙においては、そういう論を展開されているのかもしれませんが、それはまったく関係がございません。以上です」で答弁を打ち切ったのだから呆れた。

 でもね、あの太々(ふてぶて)しい都知事の顔が何十秒間か凍りつき能面と化した場面を生中継で目撃できたのは快挙だ。あの瞬間を何百万人もの視聴者が観たのだ。

 首相は壊れてるし、都知事は小狡いだけ。そんなとき支持政党の別なく、石破茂の篤実さに期待する声がいま高まっている。長期政権も、マスクと金の出し渋りで土俵際まで追い詰められた。石破でなくては選挙は勝てないと与党が安倍政権に見切りをつける可能性もある。誠実さが政局を動かすその時を見たい。

INFORMATION

『ニュースウオッチ9』
NHK総合 月~金 21:00~
https://www.nhk.jp/p/nw9/ts/V94JP16WGN/