北海道大学総合博物館教授の小林快次氏は、日本を代表する恐竜研究者だ。昨年には、北海道むかわ町でほぼ全身の骨格が保存された化石が発見されていた鳥脚類・カムイサウルス(通称「むかわ竜」)を新種報告。カムイサウルスは昨年夏に国立科学博物館で開催された「恐竜博2019 THE DINOSAUR EXPO 2019」でも目玉展示となった。
1億6000万年以上も地球上で繁栄を続けながら、約6600万年前に鳥類を除いて絶滅してしまった生物・恐竜。筆者は本来、中国事情を専門分野にしているが、一介のファンとして恐竜が大好きである。そこで4月10日発売の『文藝春秋』5月号「令和の開拓者たち」コーナーで、10ページにわたり小林氏の評伝を担当した。
今回の『文春オンライン』記事は、1月上旬の取材時の小林氏とのやりとりを対談風に書き直したものである。100年に1度とも言われる感染症のパンデミックが世界を覆う現在。かつての地上の覇者だった恐竜からわれわれ人類が学べることは、意外と多いかもしれない――?
◆◆◆
次の時代を作るのは「強者」か「弱者」か?
――小林先生と言えば、理科好きの人や子育て世代の人にとっては、NHKラジオ第1の『子ども科学電話相談』の「ダイナソー小林」のイメージが強いかもしれません。恐竜学は、おそらく他の学問分野以上に一般向けの“啓蒙”に力を入れていると感じます。
小林 その通りです。恐竜ってやはり魅力があるんですよね。子どもたちが夢中になるのも、単に大きいとか強いとかじゃない、もっと根底的な理由がある。それを掘り下げて、サイエンスの面白さや生命の神秘を伝えていく。恐竜学の社会的な意義も、こうした部分にあるように思います。
――人類全体の「知」をアップさせる学問ということですね。
小林 恐竜研究をしていると、かつての恐竜の姿には人間の社会と重なる部分もある。そこは僕たちだから伝えられるメッセージですね。生物の進化から「次の時代を作るのは強者か弱者か?」みたいな教訓を学び取ることもできます。たとえば、僕はかつて1999年に科学雑誌『ネイチャー』に、オルニトミモサウルス類の食性についての論文を書いたことがあるんですが……。
――オルニトミモサウルス類とは、いわゆる「ダチョウ恐竜」ですね。映画『ジュラシック・パーク』では、この仲間のガリミムスが群れで草原を走っていくシーンがありました。
小林 はい。このオルニトミモサウルス類は、ティラノサウルスなんかと同じ獣脚類の仲間ですが、化石から胃石が発見されており、植物を食べていた――。という論文なんです。ところが、恐竜の食性の話も、実は人間の社会への示唆に富むところがあるんですよ。