絶滅を逃れた鳥類は「強い」恐竜か、「弱い」恐竜か
小林 鳥は恐竜から進化し、白亜紀末の大量絶滅を生き残った生き物です。鳥と非常に近縁な恐竜の食性の問題は、どんな理由で鳥が進化したのかという問題にもつながってくる。
恐竜から鳥への進化は、地上から空へという、動物の大進化なわけです。仮に鳥が肉食恐竜から進化したなら、いわば「強い」恐竜がより獲物を得る機会を求めて空に飛び出したと言えるでしょう。いっぽう、植物食の恐竜から進化したとすれば、「弱い」恐竜が安全な場所を求めて空に逃げたということになります。進化のきっかけは強かったためか、弱かったためか。面白いテーマでしょう。
――仮に植物食の恐竜が鳥の祖先とすれば、彼らは「弱い」から空の空間を開拓できたことになりますね。
小林 そうですね。もっとも鳥については、僕は肉食恐竜から進化したのではないかと考えているのですが、実際はどちらだったかは、まだ不明な部分が大きい。他に「弱い」生き物が進化した例としては、かつての哺乳類もそうでした。
恐竜の特徴のひとつは巨大化です。身体が大きくなると寿命が長くなります。しかし、これは性成熟までの期間が長いことも意味する。未熟な子どものうちは、大きな環境変化が起きた時にダメージを受けやすくなります。
ゾウやカバより、ネズミのほうが環境変化に柔軟
――いったん個体が減少した後で、もういちど数が増えるまでの時間もかかりますね。
小林 その通りです。実は個々の生命体として長命であることは、種としての長生きとはイコールではない。いっぽうで、ネズミみたいに小さな生き物は1年も経たないうちに性成熟して子孫を残すことができます。環境の大きな変化に対しては、たとえばゾウやカバよりも、ネズミのほうが比較的柔軟に対応できると言えるわけです。
――白亜期末の大量絶滅期も、「強い」恐竜が死に絶えたいっぽうで、「弱い」はずの哺乳類が生き延びた……。これは人間の社会でもありそうな話ですね。
小林 そうです。どういう人が優秀かを判断するのって、実は難しい。お金持ちの人が優秀かいえば、10年後には会社が倒産しているかもしれない。逆にいまは他人から見て「くすぶっていた」ように見えている人でも、次の時代が来れば脚光を浴びるかもしれません。
恐竜の進化を見ていると、ものごとの優劣は簡単に逆転することがわかる。そもそも「優秀」や「ダメ」の基準なんていい加減で、あってないようなものだとわかるんです。
カムイサウルスは「海の地層で見つかった恐竜」だった
――小林先生は、北海道むかわ町で見つかったカムイサウルスの発掘を指揮、研究されたことで有名です。カムイサウルス発見の意義は、やはり全身骨格の化石が見つかった点でしょうか? 中国やアメリカと比べて、国土が狭く造山運動が活発な日本では状態のいい恐竜化石が残りづらいと聞いたことがあります。