アスリート委員長だった高橋は、協会と選手の対立を煽るのではなく、調整役の責務を履行していた。6月中旬に理事会に「意見書」を提出した。これまでの選手たちの意見を汲み、「毎月の参加を義務づけられている岐阜羽島での代表合宿を任意にすること」「代表強化コーチと所属コーチの連動」「強化選手の活動環境の改善」などを求めた。回答期限を6月末に区切っていた。
金原会長のパワーで人事が決まる
この意見書が出されたことで、ようやくマスコミも問題に注目し始めるが、まだまだ報道は一部の新聞に限られていた。
さらに同じ6月、改革を求めるもうひとつの大きな動きがあった。テコンドー協会の各都道府県の代表者である正会員の総会が開かれたのだが、ここで「現在の小池隆仁コーチ強化体制を解体すべき」という動議が出されたのである。あらかじめこの体制刷新の要望書が準備されており、そこには正会員の過半数14人と強化指定選手の所属コーチ、さらには協会副会長の岡本依子の署名がなされていた。金原会長・小池コーチ体制では東京五輪は戦えないという危機感が共有されていたのである。
「私はその動きを知らなかったのですが、岡本さんも副会長の立場から、会長宛のその要望書に署名するというのは相当勇気がいったと思います。この総会のときには、正会員の皆さんもあらゆるゴタゴタを知っていたので、理事再任を否決をしなければいけないという気持ちが高まっていたんです。
じつはその要望書は金原さんではなくて、あくまでも強化に関わる2人、小池コーチと強化本部長に対してです。ところが、署名入りの要望書を金原さんが総会で配布させなかったんです」
正会員や副会長が署名した準備書面をその場で会長が制止してしまった。しかしそんな妨害があっても、決議が行われ、過半数で小池コーチら2人の理事再任は否決された。
しかしそれでも金原会長の横紙破りはまだ続いた。最高意思決定機関である総会でのこの決定をその場で「受け入れない」ときたのだ。そして、次の理事会で2人をもう一度推薦して再度承認させることを宣言したのである。正会員を無視して、たったひとり、金原会長のパワーによって人事が決められてしまう事態が起こっていた。