金原会長と反社会的勢力とのつながり?
前後して高橋は『週刊新潮』(19年10月3日号)で出た金原会長の反社会的勢力との関わりの記事について安藤とコンプライアンス委員会に事実関係の調査を依頼することを相談していた。
「会長についての新潮の報道がありました。私はスポンサーを直接何社か獲得していたんですが、その契約書に『かならず反社について関係を持たない』という一文があるんです。報道についてスポンサーさんから実際に『どういうこと?』という問い合わせもありました。でももちろん理事会は動かないし金原さんにそれを直接訊く人もいない。それで協会の規定を片端から読み込んでみたんです。そこに協会の中でも会長と専務理事とアスリート委員長は、コンプライアンス委員会に対して調査依頼を出すことができるという一文があったのを見つけたんです。それでこの規定に則って私が調査依頼を出そうと思いますと弁護士でもある安藤さんに確認しました。そしたら安藤さんも『この問題について無視できないと思っていた。だからやってください』と」
高橋は決して自分勝手に暴走していたわけではない。組織の中で専務理事の了承も取り、コンプライアンス委員長にもメールで「調査依頼を出します」と報告をして受理されていた。ところが、そこから高橋に対する攻撃が始まる。
「高橋さんを刑事告訴する予定だ」
10月8日に理事会が開催された。音声データが残っているが、高橋に対して「選手たちをあおって合宿に行かせなかったのではないか」などと、個人を責める声が重なり続ける。理事会は約7時間に渡り、岡本は「この理事会では議論がかみ合わないし、選手の要望に応えられないから」と総辞職を主張、高橋も自分たち2人も理事を辞めると発言したが、認められなかった。岡本が「それなら私たちは名前だけですか?」と返すと、「そうです。名前が大事なんです」とある理事が返した。
同じ理事に対して何の敬意も示されない一連のやりとりの中で、「金原会長に対する反社の調査を示した高橋さんを刑事告訴する予定だ」という言葉が飛び出した。もはや理事会の議題ではなく、恫喝であった。1年以上に渡る高橋の心労が一気にあふれ出た。アスリート委員長として堪えていた緊張は崩壊した。
「もう退席させてください」
「あの言葉を聞いた途端に気持ち悪くなって。ただ、刑事告訴と言われたときに、あ、ヨリ(岡本)さんも2カ月前にこんな感情だったんだ、相当きつかったなというようなことを自分の中で考えていたのは覚えているんです。でもその直後から手足がしびれてきて、そこから朦朧としているんです」
音声データには「もう退席させてください」という高橋の声が残っている。「でもあなたたちが出ると(外には)マスコミがいるから……」という躊躇する理事たちの声。
「最終的になんとか出させてもらえることになり、鞄を持って出たところから、もう記憶がないんです」――そして過呼吸になった高橋は倒れた。
(【#1】金原昇元会長とテコンドー協会の闇 「名誉棄損で訴えるぞ!」私は脅された――協会元理事、半年後の告白 を読む)
写真=山元茂樹/文藝春秋